立位・膝立ち位からのステップ動作時の股関節周囲筋郡の動作速度による筋活動電位の比較

  • 宮本 太
    医療法人伯鳳会 明石はくほう会病院リハビリテーション部
  • 内海 新
    医療法人伯鳳会 明石はくほう会病院リハビリテーション部 神戸学院大学総合リハビリテーション学研究科
  • 岩井 信彦
    神戸学院大学総合リハビリテーション学研究科
  • 篠原 英記
    神戸学院大学総合リハビリテーション学研究科

Description

【目的】膝立ち位は臨床において評価や治療に利用され、特に片麻痺患者の治療では股関節周囲筋群の促通を目的に用いられる事が多い。また、運動器疾患患者に対しても股関節周囲筋群の選択的な強化を図る目的で膝立ち位や、膝立ち位からの片脚前方ステップ練習を実施することがある。今回、表面筋電図を使用し、膝立ち位と立位のステップ動作時の支持側股関節周囲筋群の筋活動電位の動作速度の変化による違いを明らかにすることによって、股関節周囲筋群のより有効な訓練方法を見出せたので報告する。<BR>【方法】本研究の対象は、整形外科・神経外科的に問題のない健常男性13名であった。まず被験者に立位をとらせ、その姿勢から右下肢を前方にステップし、続いてステップした下肢を元の姿勢に戻る動作までを1サイクルとして、任意のリズムで反復させた。膝立ち位でも同様に、その姿勢から右股・膝関節を各々屈曲90度になるように踏み出させた。各動作とも前方を注視させ、両上肢は体側に置き、両肩峰と骨盤を水平位に維持するように指示した。各動作の速度は、メトロノームを利用して40bpmと80bpmの2パターンで実施した。表面筋電図の測定は、Biopac Systems社製MP-150を利用し、支持側である左下肢の大腿直筋、中殿筋、大殿筋、大腿二頭筋内側頭の四筋に対して表面電極(日本光電製ディスポ電極ビトロード)を電極間隔1cmで貼り付けた。また、右足部接地部に圧センサー(共和電業製小型圧縮型ロードセルLMA-A)を設置することによって右下肢の離接地の時期を測定し、各サイクル時間を算出した。測定し得たサイクル時間の表面筋電図から筋電図積分値を算出し、その値を動作に要した時間(秒)で除した数値をDanielらの徒手筋力検査法に従って行った最大等尺性収縮(MVC)の1秒間の積分値を100%として正規化し、%MVCとして表した。なお、統計学的検討としてt検定を実施し、有意水準は5%とした。<BR>【説明と同意】各被験者には本研究目的と内容について十分に説明を行い、同意を得たのちに測定を行った。<BR>【結果】立位と膝立ち位での動作姿勢を比較すると、速い動作・遅い動作共に膝立ち位において大殿筋が有意に高値を示した。大腿直筋においては膝立ち位の遅い動作では有意に高値を示すも、速い動作では差はみられなかった。膝立ち位での動作速度を比較すると、いずれの筋にも有意な差は得られなかった。大腿二頭筋と中殿筋では、動作姿勢・動作速度共に筋活動に有意な差は認められなかった。<BR>【考察】通常歩行における立脚後期での前方への推進力は重心の位置エネルギーによる逆振り子様の動力と下腿三頭筋の働きによって得られている。膝立ち位でのステップ動作では、同筋の働きが前方への推進力として関与できないため、その推進力はもっぱら大殿筋に依存するものと考えられる。身体平衡作用においても同様に、立位に比し膝立ち位では足部ストラテジーによる安定の確保が得られないことから、股関節ストラテジーである股関節周囲筋群に委ねられることが推測される。また、立位と膝立ち位では身体重心線に対する各関節の位置関係も変化するように思われる。立位では支持基底面となる足部が身体の前方に位置し、重心線が足部の中央および膝関節中心付近を通るのに対し、膝立ち位では支持期底面は脛骨粗面が中心となり、重心線もその付近を通ることが推測される。結果として重心線は膝関節より後方を通り、身体の重力により生じる膝関節屈曲トルクを制御するために大腿直筋の活動が求められ、今回の結果のごとく大腿直筋の活動が有意に高値を示したものと思われる。大腿直筋の骨盤に対する作用、即ち股関節屈曲に対抗して姿勢を保持するためにも大殿筋が働く必要があり、今回の結果はそれを裏付けるものである。また、膝立ち位における大腿二頭筋の筋活動は特に顕著な所見はなかったが、このことは立位に比し膝立ち位では膝関節の屈曲が大きいことから、二関節筋である同筋がかなり短縮位に置かれ、股関節伸展に対して効果的に作用できなかったことによると思われる。また、膝立ち位での側方の安定の確保にも同様に股関節ストラテジーである股関節周囲筋群の働きが推測されたが、中殿筋の筋活動に有意な差はなかった。これは、膝立ち位でのステップ動作では、体幹を支持側へと傾けることで身体重心線を支持脚上へと移動させ、身体の側方の安定を図っていると考える。このため、立位と比較しても股関節外転に作用する中殿筋の筋活動に顕著な差がみられなかったと考える。<BR>【理学療法研究としての意義】本研究により、膝立ち位でのステップ動作により股関節周囲筋群の筋活動を選択的に高める可能性があることが示された。本研究の結果は、臨床での運動課題の選択の際に、効率的な運動療法の選択を行う一指標となると考えられる。

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Details 詳細情報について

  • CRID
    1390001205674977920
  • NII Article ID
    130007007670
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2011.0.75.0
  • Text Lang
    ja
  • Data Source
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • Abstract License Flag
    Disallowed

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