クラッチでの歩行を獲得した二分脊椎症胸髄レベルの一症例

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抄録

【目的】 近年水頭症に対する脳圧減圧手術の技術の進歩により、二分脊椎症児に合併する水頭症においても知的発達、上肢機能の保全が十分に図られるようになった。そのため二分脊椎症児の将来的な社会生活での自立を考えた場合に、自立歩行の獲得・維持がその重要な要素となってきている。 現在、脊髄運動最下髄節胸髄レベル(以下、Thレベル)において歩行を獲得したという報告はなく歩行獲得に向けた理学療法も確立されていない。 Thレベルでは一般的に歩行の確率は不可能とされており、当初から歩行練習は行わずに車椅子自操の獲得をゴールとした理学療法が施行される傾向にある。 我々はThレベルの二分脊椎症に対し幼少時期より体幹付きKAFOを装用し、立位練習、歩行練習、クラッチ歩行に必要な上肢筋力の強化を施行することで、屋外にて監視下でのクラッチ歩行を獲得した症例を経験したので経過と結果に考察を加え報告する。 【方法】 症例は16歳女性。脊髄運動最下髄節Thレベル。普通高校1年生。初診時年齢4カ月。装具は体幹付きKAFOで体幹にはナイト型を用い、股・膝継手にはDrop Ring Lock、足継ぎ手は底屈0°背屈15°までの制限付き継手を使用。理学療法は、就学前まで週1回、小学校入学時からは月1回の頻度で施行し以下の内容で行った。立位練習は起立台、つかまり立ちから始め、平行棒内、支持なし立位、リーチ動作を施行した。歩行練習では、平行棒内歩行、歩行器歩行、クラッチ歩行へと順に移行し、それぞれで四点歩行、大振り歩行を施行した。上肢筋力の強化では、座位でpush up、腕立て伏せ、平行棒でpush up、平行棒でswing、杖でpush upの順に施行した。 【説明と同意】 発表にあたって、本人とその家族には内容と意義について十分に説明し、同意を得た。 【結果】 歩行獲得年齢は、屋内歩行器四点歩行1歳6カ月、歩行器大振り歩行2歳、クラッチ四点歩行3歳6カ月、クラッチ大振り歩行4歳、スロープ昇降5歳、屋外クラッチ四点歩行5歳であった。 【考察】 脊髄運動最下髄節がThレベルの場合のゴール設定としては、北泊によると移動には車椅子とクラッチ歩行を併用する必要があるとしている。窪田らによるとL1以上の5例の歩行能力を調査した結果すべて移動には車椅子を要すると報告している。また東野らにおいてもL1以上5例に対し歩行能力は全例が車椅子であったと報告しており、Thレベルでの歩行獲得は困難であるとしている。 今回の症例では幼少時期より立位練習、歩行練習、クラッチ歩行に必要な上肢筋力の強化を施行することで、就学前に屋外クラッチ四点歩行を獲得し現在においてもその移動能力は維持されていた。 当院では、生後10カ月頃より装具装着にて立位を施行している。幼少時期より立位練習、歩行練習を行うことで、早期よりバランス能力を習得させ、体幹筋の強化、上肢操作の発達、筋力増強が期待できる。車椅子の操作練習に関しては歩行器歩行を獲得した後に行えるものと考えている 歩行器歩行獲得後に車椅子自走を行った当院でのThレベルの症例では初めて練習した当日に車椅子自操が可能となっているケースが多く、歩行器歩行獲得に際して、車椅子自操に必要な、上肢機能、体幹機能、バランス感覚などが既に獲得されているものと考えられた。本症例は就学直後には自己導尿も可能となり学校生活において自立していた。現在、普通高校に車椅子自操での電車通学が可能となっている。 実用歩行を確立する為には、クラッチでの大振り歩行、階段昇降の獲得が最低限必要である。 移動スピードが求められる集団生活の場ではクラッチ歩行より車椅子移動が選択され、就学後は車椅子移動が主となり、それに伴う体重増加、関節拘縮などが歩行能力の低下の原因と考えられる。 理学療法の頻度が減少する就学後において自立歩行能力を維持するためにはhome programを作成し装具装着での立位を習慣化するなどの移動能力維持を目的とした自主的な訓練が重要であると考えている。 【理学療法研究としての意義】 Thレベルの二分脊椎症に対し幼少時期より立位練習、歩行練習、クラッチ歩行に必要な上肢筋力の強化を施行することで、屋外にて監視下でのクラッチ歩行を獲得することが可能であることを示した。二分脊椎症症例の理学療法の新たな展開につながると思われる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205674983808
  • NII論文ID
    130007007678
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2011.0.77.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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