慢性期脳卒中片麻痺症例の足関節背屈筋群に対する筋電図誘発型電気刺激治療の試み -症例報告-

DOI
  • 中村 潤二
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 梛野 浩司
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 生野 公貴
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 小嶌 康介
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 三ツ川 拓治
    西大和リハビリテーション病院リハビリテーション部
  • 高取 克彦
    畿央大学健康科学部理学療法学科
  • 庄本 康治
    畿央大学健康科学部理学療法学科

抄録

【目的】近年、筋電図誘発型電気刺激(Electromyography-triggered neuromuscular electrical stimulation以下ETMS)の効果が報告されている。ETMSとは筋電図を測定し、設定した閾値を超えると電気刺激が加わるというものである。先行研究においてETMSが慢性期片麻痺患者の麻痺肢の運動機能を改善させたという報告が散見される。その多くは麻痺側手関節背屈筋群に対して実施したものであり、下肢に実施した報告は少ない。そこで今回、慢性期脳卒中患者一例の麻痺側足関節背屈筋群にETMSを実施したので報告する。<BR> 【症例紹介】対象は脳梗塞により右片麻痺を呈し、発症後10ヶ月を経過した84歳女性である。右下肢Bruunstrom Recovery StageはIVであり、表在、深部感覚は軽度鈍麻であった。歩行はT字杖と短下肢装具を使用し見守りレベルであった。座位での自動足関節背屈はわずかに可能だが、歩行時にはみられず股関節屈曲を代償的に用いて足クリアランスを確保していた。<BR> 【方法】通常理学療法に加えてETMSを行った。ETMSにはChattanooga社製Intelect 2765CSを用い、麻痺側足関節背屈筋群に行った。治療肢位は座位で、本機器からの聴覚信号に合わせて足関節を背屈してもらった。刺激強度は疼痛が出現しない範囲で関節運動が起こる程度とした。刺激閾値は随意収縮が最大に達した時点で刺激が入るように設定した。刺激時間は4秒間、休息時間は12秒間とした。治療は1セッション20分、週5回、3週間実施した。評価項目は座位での自動足関節背屈角度、裸足での5m歩行時間および歩数、内省報告とした。また歩行時の麻痺側下肢の関節角度、麻痺側足クリアランス、歩幅を三次元動作解析装置MA2000を用いて測定した。さらに即時的効果をみるために自動足関節背屈角度、5m歩行時間および歩数は各セッション前後での差の平均値を算出した。本研究への参加を求めるにあたり、本治療から予測される効果や危険性について説明を行い同意を得た。<BR> 【結果】自動足関節背屈角度は治療開始時-15°、終了時0°となった。5m歩行時間は開始時63.0秒、終了時56.9秒となった。歩数は開始時42歩、終了時38歩となった。歩行時の麻痺側足関節背屈角度に変化はなかったが股関節屈曲角度は2.8°増加した。歩幅は5.7cm、クリアランスは2.4cm増加した。即時的効果では自動足関節背屈角度は平均3°増加し、歩行時間は平均3.14秒減少したが、歩数に差はみられなかった。座位での足関節背屈が行い易くなったという内省報告が得られた。<BR> 【考察】自動足関節背屈角度の変化、内省報告からETMSが慢性期脳卒中患者の麻痺側足関節背屈筋群の運動機能に影響を与えた可能性がある。しかし、歩行においては介入前後で歩行時の足関節背屈角度に変化はみられず、歩幅、クリアランス、歩行時の股関節屈曲角度が増加した。このことから股関節屈曲による振り出しの代償動作が強くなり、ETMSが歩行に汎化しなかったと考えられる。今後は基礎水準期の設定や介入方法等を検討し、ETMSの効果を検証していく必要がある。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205675715584
  • NII論文ID
    130007007823
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2008.0.81.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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