膝関節屈曲制限のあるL3レベルの二分脊椎症児の理学療法について
抄録
【目的】 二分脊椎症は、両下肢の麻痺、ならびに知覚麻痺、脊髄髄膜瘤、水頭症、膀胱直腸障害を主症状とする先天性脊髄疾患である。当院では、学齢期までに歩行能力の確立とADLの自立をリハビリテーションの大きな目標としている。本来残存脊髄最下位レベルL3の二分脊椎症患者は、幼少時期において長下肢装具で歩行可能な者が多いが、下肢筋力が伸展優位であるため、膝関節過伸展と強い屈曲制限がある状態で出生される事が多く、この場合長下肢装具での歩行獲得が困難である。今回この様な患者らに対して、膝関屈曲制限の改善と装具の改善を中心に理学療法を検討することにした。 【方法】 L3レベルの二分脊椎患者で出生時から膝関節屈曲制限の強かった1症例に対し、理学療法を開始してから小学校入学までの約6年間の経過を、膝関節屈曲制限の経過と立位・移動能力の変化を中心に検討した。膝関節屈曲制限に対しては、温熱療法と徒手・装具による屈曲方向へのストレッチホームプログラムを中心に行い、立位・移動能力に対しては、立位保持から独歩獲得まで時期に合わせて装具・訓練に工夫を行った。当院では、初診時より5歳までは、週1回、5歳から就学までは月1回のペースでリハビリテーションを行い、家では毎日入浴後に、膝関節屈曲のストレッチを背臥位で20~30分間行った。また感覚障害があるために、長時間持続的伸張を加えると筋が損傷する恐れがあるため、1回の伸張時間を短くし、回数を多くすることでストレッチ効果を出すように工夫した。症例紹介: 7歳の女子。現在小学校1年生。生後3ヶ月で当院を初診、初診時における患者様のROMおよびMMTはL3レベルの障害を示し、膝関節に強い屈曲制限(右10°左10°)と過伸展(右50°左40°)が見られた。 【説明と同意】 本人と保護者に対し文書を用いて本研究の説明を行い、同意の署名を得た。 【結果】 装具は、体幹付き長下肢装具を装着し、1歳でつかまり立ち、2歳で平行棒内歩行、3歳で歩行器歩行、4歳でクラッチでの立位保持、5歳でクラッチでの歩行、6歳でクラッチでの股関節屈伸運動を伴った歩行を獲得、体幹装具なしでの長下肢装具での歩行獲得は出来なかった。膝関節屈曲角度は、現在右膝関節60°、左膝関節90°、膝関節伸展は右膝関節30°左膝関節20°まで改善された。 【考察】 L3レベルでは、大腿四頭筋の筋力は比較的残存しているが、ハムストリングスの筋力は残存していないため出生時から膝関節が過伸展して屈曲制限が強い本症例のようなケースが認められる。出生間もない新生児の時期は、筋力が弱く、筋肉を含め軟部組織が伸張性に富んでいるため、この頃からの徹底したストレッチが膝関節屈曲制限の改善につながり、装具による過伸展の予防を行う事で過伸展の改善も見られたと考えられる。 立位・移動能力に関しては、就学前までに体幹付き長下肢装具での歩行を可能とし、装具の着脱、床からの立位、歩行への移行も自立で行えるようになった。また体幹付きの長下肢装具では、不可能であった自己導尿を体幹部・股関節部に工夫をすることで可能にした。しかし長時間の長座位保持困難・自己導尿が休み時間内で行えないなどの問題点が明らかになった。結果的に、より実用的な動作を獲得するため装具への工夫や長下肢装具での歩行の獲得など将来像を考えて向き合うべき問題点が明らかになった。 【理学療法研究としての意義】 L3レベルの二分脊椎患者では、膝関節屈曲制限のあるケースは少なくない。しかし、それに対するアプローチや装具の工夫についての報告は少なく、今後同様の問題点を持つ二分脊椎患者にも役立つよう理学療法内容の検討が必要だと考えられる。
収録刊行物
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- 近畿理学療法学術大会
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近畿理学療法学術大会 2010 (0), 52-52, 2010
社団法人 日本理学療法士協会近畿ブロック
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205676561024
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- NII論文ID
- 130007008043
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可