上肢筋および体幹筋に対する筋硬度測定の信頼性

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抄録

【目的】  骨格筋には,長期間のギプス固定や安静臥床,筋緊張異常,末梢神経麻痺などによって短縮しやすい筋が存在し,これらの筋を触診するときに筋の硬さ(以下,筋硬度)を感じる.近年,筋硬度の測定に筋硬度計が用いられるようになり,定量的に評価した文献が散見されている.しかし,筋硬度の測定には,測定者の熟練度もさることながら,筋や骨の形状を考慮し,筋硬度計の押圧方向を一定にできるような測定方法を設定する必要がある.そこで,本研究では,測定肢位や部位,筋の形状,筋腹の大きさなどを考慮して上肢筋および体幹筋で短縮しやすい筋の測定肢位,筋硬度計の押圧方向を設定し,測定者2名が実際に測定したときの筋硬度の信頼性について検討した.<BR> 【方法】  対象は,一般成人12名(男性6名,女性6名),平均年齢22.5±3.4歳であった.整形外科疾患を有する者,慢性的な肩こりを有する者は対象から除外した.筋硬度の測定は,生体組織硬度計PEK-1(井元製作所)を用い,利き手側の胸鎖乳突筋,三角筋(前部・中部・後部線維),僧帽筋(上部・中部・下部線維),棘下筋,広背筋,上腕二頭筋(長頭・短頭),尺側手根屈筋の12ヵ所を測定部位とした.胸鎖乳突筋,三角筋前部・中部線維,広背筋,上腕二頭筋長頭・短頭は背臥位,三角筋後部線維,僧帽筋上部・中部・後部線維は腹臥位,尺側手根屈筋は前腕を机上に載せた端坐位とし,測定部位が安定するようバスタオルを敷き,筋硬度計を筋腹に対して直上になる角度から押圧できるように調整した.測定手順は,測定者Aが測定,次に測定者Bが測定した.測定回数は3回とし,これらの平均値を代表値とした.統計分析として,測定者A,B間の筋硬度値の比較は対応のあるt検定,測定者A,B間の筋硬度値の関係はPearson積率相関分析,測定者内および測定者間の信頼性は級内相関係数を用いて分析した.<BR> 【説明と同意】  すべての対象者に対し,事前に書面にて研究の目的と内容,本研究での利益と不利益,プライバシーの保護を説明し,同意を得てから調査を行った.<BR> 【結果】  測定者A,B間における筋硬度値の比較において,胸鎖乳突筋,三角筋中部線維,三角筋後部線維および僧帽筋中部線維において有意差があった.測定者A,B間における筋硬度値の関係では,僧帽筋上部線維と僧帽筋中部線維を除くすべての筋において有意な正の相関がみられた.測定者A,B内の筋硬度測定の級内相関係数では,測定者A,Bともに級内相関係数が0.8未満の筋は三角筋前部線維,三角筋中部線維,上腕二頭筋短頭であった.測定者A,B間の筋硬度値の級内相関係数では,級内相関係数が0.8未満の筋は三角筋前部線維,三角筋中部線維,僧帽筋中部線維,上腕二頭筋短頭であった.<BR> 【考察】  本研究では,上肢筋および体幹筋で短縮しやすい筋の測定肢位,筋硬度の押圧方向を設定し,実際に測定したときの信頼性について検討した.その結果,信頼性の高い筋硬度値が得られる筋と得られにくい筋が存在することが示された.筋硬度値に影響する要因は,筋硬度計の押圧を受ける骨の形状,筋の構造的な特徴,筋硬度の測定経験などが考えられる.これらの要因によって,三角筋前部・中部線維,僧帽筋中部線維,上腕二頭筋短頭の筋硬度値の信頼性は低くなったと推測する.今後,信頼性の低かった筋に対する測定方法については,さらなる検討が必要である.<BR> 【理学療法研究としての意義】  筋硬度計の測定における測定肢位および筋硬度計の押圧方向を検討することは,信頼性のある筋硬度値を得るために必要である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205676598144
  • NII論文ID
    130007008061
  • DOI
    10.14902/kinkipt.2010.0.38.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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