海岸砂丘前面,背面に生育するコマツヨイグサのフェノロジーの変異
書誌事項
- タイトル別名
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- Phenological variation of <i>Oenothera laciniata</i> Hill. growing on the front and rear of coastal sand dune
抄録
コマツヨイグサ(Oenothera laciniata Hill.)は北アメリカ原産の帰化種で,東北以南の海辺や河原など,乾いた砂地に広く分布する可変性二年草である。一般の海浜植物と比較すると,種子サイズが小さく,根系も貧弱で,このような環境に適しているとは考えにくいが,かなり大きな純群落を形成することもある。<br> これまでの研究で,茨城以北では,一般的な可変性二年草とは異なり,環境が厳しいと考えられる北で生育期間を短くし,越年一年生ではなく,夏生一年生の生活環を示すことが明らかになった。特に,分布域北限近くの宮城県深沼では,90%以上の個体が夏生一年生の生活環を示した。これは,繁殖開始サイズを小さくすることで,環境ストレスが大きく,死亡圧が高くなる冬季を種子で回避するための生活史戦略であると考えられる。しかし,同じ場所でも,他の植物も生育している砂丘背面と比較して,海に近くより厳しい環境である砂丘前面では,個体サイズが小さくなり,フェノロジーも一年生の個体が多くなる傾向が観察された。そこで,砂丘の前面と背面でコマツヨイグサ個体群を追跡調査し,そのフェノロジーと個体サイズを比較した。<br> 調査は2003年,茨城県大竹海岸で行った。海風の吹き付ける砂丘前面から頂上部にかけてと,砂丘背面下部から続くなだらかな斜面にコドラートを設置し,当年生実生をマーキングして葉数とロゼットサイズを追跡調査し,開花や結実などの生育段階も記録した。<br> 8月の砂丘前面と背面と比較すると,死亡率は28%と1%で前面で有意に大きく,平均葉数は9.3枚と24.2枚で有意に小さかった。また,生育期間後期に当たる10月の二年生個体の割合はそれぞれ2%と15%で砂丘背面で有意に高くなった。このことから,コマツヨイグサは,生活史の地理的な変化と同様に,局所的な生育環境の差によってもそのフェノロジーを変化させ,死亡圧の高い時期を回避している事が示唆された。
収録刊行物
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- 日本生態学会大会講演要旨集
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日本生態学会大会講演要旨集 ESJ51 (0), 238-238, 2004
日本生態学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205689988480
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- NII論文ID
- 130007011203
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可