日本全国のサクラソウ集団の遺伝的多様性

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The genetic diversity of Primula sieboldii in Japan

抄録

生物種は固有の進化的プロセスを経た地域集団から構成されており、種の保全においては、各集団の遺伝的特徴や遺伝的関係を考慮して保全することが重要である。本研究では、絶滅危惧植物サクラソウを対象として、種子や栄養繁殖体による歴史的な分布拡大過程を反映する葉緑体DNA、花粉による集団間の遺伝子交流を反映するマイクロサテライトと異なる特色を持つ遺伝マーカーを指標として、国内の分布域全域にわたる70集団の遺伝的変異を把握することを試みた。<br><br>日本全国から30個の葉緑体DNAハプロタイプが見出され、それらは大きく3系統に分化していた。ハプロタイプの多くは地域特異的に分布していたが、中には北海道と中国地方に隔離分布するものや中部地方以北に広域分布するものもあった。異なる母系に属する集団が20km圏内といった比較的狭い範囲に隣接して存在する地域が認められた。マイクロサテライト5座を指標として集団間の遺伝的関係について分析した結果、集団間の地理的距離に応じて遺伝距離も大きくなる傾向があり、地理的に近い地域集団は遺伝的にも類似していることが示された。これらの遺伝構造は、過去から現在までのさまざまな進化的プロセスを反映した結果であると考えられ、人為的な遺伝的撹乱が生じないように留意しながらそれぞれの変異を保全していく必要があるといえる。もし衰退した集団の回復を目的として植物体を他の場所から移入する場合には、生態的・形態的特徴などに加え、本研究で明らかにされた遺伝的変異を踏まえて行うことが必要である。各地域集団の遺伝的特徴に関する情報は、盗掘された株や系統保存されている株の出自の検証、および他地域に由来する株の野外への逸出を把握するうえでも有用であろう。<br>

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205690305536
  • NII論文ID
    130007011766
  • DOI
    10.14848/esj.esj51.0.53.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ