非致死的な捕食が被食者の質に与える影響(3)質の変化は何をもたらしたか

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Non-lethal effect of avian predators on behavioral properties of grasshoppers(3) Ecological consequences

抄録

自然生態系において、捕食者の影響は被食者を殺すことで生じると考えられてきた。しかし近年、被食者が捕食機会に遭遇することで行動や形質が変化するという非致死的な効果が注目されるようになってきた。本講演では、鳥のバッタ類に対する非致死的効果である自切を対象とし、それがもたらす生態的効果について述べる。同題の前2講演によって、イナゴの自切は中型の鳥が特異的に引き起こすこと、中型の鳥はイナゴをめったに殺さないこと、自切の生理コストはほとんどないこと、しかし、オスでは高い配偶コストがメスでは行動の変化が生じることが明らかとなった。メスの行動の変化とは、自切個体がイネの株内部に潜りこむことであり、鳥の捕食を避ける上で効果があると予想された。さらに、別の実験によって自切個体は活動性が低下し、その結果、鳥の捕食に遭遇しにくくなることが分かっている。以上から、自切メスは鳥に捕食されないように行動を変化させていると考えられる。こうした行動の変化は、摂食時間の減少や配偶・産卵活動の低下などに結びつく可能性がある。したがって、自切を引き起こす中型の鳥がイナゴに与える影響は、ほぼイナゴの行動変化を通じた非致死的なものに限られる。一方、休耕田に棲息するトゲヒシバッタは潜在的捕食者であるトノサマガエルに対する捕食回避策を発達させており、カエルの効果はやはり非致死的であった。いずれの場合においても、同じ生息場所にすむ主要な潜在的捕食者と被食者の間には、捕食を通じたエネルギーの流れはほとんどなく、捕食者の効果は被食者の行動を介した非致死的なものであった。この結果は、食物網とそこを流れるエネルギー量を基盤としたこれまでの群集観と大きく異なる。その群集生態学的な意義について考察する。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205690515072
  • NII論文ID
    130007012143
  • DOI
    10.14848/esj.esj52.0.84.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ