シンポジウム 食品の機能性から調理を考える

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  • Symposium: [title in Japanese]

抄録

1. はじめに<BR>食品の機能性とは本来、一次機能・二次機能・三次機能の3つを指す言葉である。しかし、最近では三次機能に対する関心の高さから食品の機能性は三次機能の代名詞となっている。農産物や食品の生産者・開発者の立場で考えるならば、販売戦略の1つとして「体によい食品」は格好の宣材要素であり、価格や品質に大きな差がない農産物や食品の場合、差別化を図るために重要であるという認識が強くなっている。食品の安全性を第一としても、機能性成分を多く含んだ食品や食材である野菜や果物は、「体によい食品」と認識されるのではないだろうか。それは、単離または定量された機能性成分の立場から考察した結果であり、「調理後の食品」までを総括的に考慮した研究例はまだまだ少ない。美味しい料理が「よい食材と上手な作り手(調理人・調理法)」なくしては生まれないのと同じく、せっかくの機能性成分も調理したのちに、実際に口から入る可能性が全くないのならば意味をなさない。<BR>そこで、食品の機能性に関して調理科学的立場での研究が重要であることを例示し、また実際に研究を進めて行く上での難しさや問題点などについても考えてみたい。<BR>2. 機能性研究の中での落とし穴<BR>食品の機能性成分の探索研究では、自分を含めた農学系・薬学系研究者は迷わず食品素材の有機溶媒抽出物を調製し、定法に従った分離操作で機能性成分を単離していく。分子レベルで食品の持つ機能性を明らかにするという目的達成のためには、この研究手法は大いに威力を発揮してきたといえる。反面、単離された物質が実は熱不安定だったり、容易に加水分解を受けてしまうような不安定な物質であった場合、調理後の食品にその機能性成分が殆ど含まれないことも起こりうる。一例として、ナンキョウ中の辛味成分であるACA(1’-acetoxychavicol acetate)の研究を挙げることができる。ACAは抗酸化活性や発がん抑制効果について研究されている物質であるが、容易に加水分解を受けHCAやp-CDA、p-ACといった加水分解物が生成する。残念なことに、これら3つの加水分解物には全く発がん抑制効果がない。久保田らの研究では、沸騰水中15分の加熱でACA残存量は5%未満に、30分の加熱で1%未満にまで減少してしまうことが明らかにされている。しかし、調理上の工夫でACA摂取の可能性を高めることができるのかどうか、さらに研究例に沿って示したい。<BR>3. 伝承や食文化から学ぶ機能性の研究例<BR>古くから伝承的薬理効果や生理機能が知られている食用植物について、その機能性成分の研究を行うことは大変興味深い(例:ニンニクやタマネギ)。しかし、そこでの食用植物の研究は薬用植物の研究に近く、調理される食品としての認識は薄れている。実際、演者らの研究などにより単離された機能性含硫化合物を例にとって、調理条件により様々に変化する含硫成分の機能性評価の難しさを示す。<BR>ある土地の食文化から、思いがけない食品の機能性が期待できることがある。一例として、演者らの沖縄産食材の機能性研究があり、島ラッキョウ中から単離したアセチルアデノシン類はラッキョウの「生食」という食文化故に摂取可能な成分であることがわかった。本土で食される酢漬けラッキョウに本成分は含まれてなく、食文化=調理法の違いにより発見できた機能性成分の1つであった。<BR>4. 複合系である食品の機能性を如何に調理科学すべきなのか<BR>様々な成分の複合体である食品の機能性を、調理科学的立場で如何に研究をすすめるべきか。すでに、ある種の生理機能を指標に、機能性成分やその生理活性が最大に残存しうるような調理条件の検討研究は行われている。しかし、機能性成分に注目した研究でも、調理条件に注目した研究でも、最後に突きつけられる疑問が3つ存在する。それは、1)本当にヒトで効果があるのか、2)どれだけ食べればよいのか、3)様々な食材を一緒に調理した後でも大丈夫なのか、である。これらの疑問に対する答えは決して容易ではなく、自分自身でも十分な研究方針を見つけていない。けれども、調理科学的研究こそが、2)や3)への解答に貢献できる学問領域と信じている。<BR>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691463808
  • NII論文ID
    130007013615
  • DOI
    10.11402/ajscs.15.0.130.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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