中国北京市における水資源問題と居住者の節水行動

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  • A study on water resources problem and saving water action by residents in Beijin CHINA

抄録

<BR>I.問題所在と研究目的<BR>  2008年にオリンピック開催を控える北京市は,経済活動が活況を呈する一方,慢性的な水不足問題が存在し,これにより中長期的には社会経済発展への阻害要因となることが懸念されている.<BR> 中国は,地勢状,南北間の水資源の偏在が見られ,年降水量では南部長江デルタ地域の1,000~1,500mmに対し,北京を含む北方地域では,400~800mmにとどまっている.また,水源別の供水量割合においても,南北間に地表水・地下水依存度の明瞭な相違がみられる.こうした水資源問題に対し,中国では,第10次5ヵ年計画において,揚子江(長江)から西北・華北地域へ導水する「南水北調」事業が計画決定され2002年に着工した.本事業では,2008年までに,北京市-河北省石家庄市区間の通水が完了し,北京における水不足解消に一応の成果が見込まれている.<BR> 最近では中国における環境統計データの整備・公開が進みマクロレベルでの水資源問題に関する多くの知見が得られつつある.しかし,現在までのところ「生活用水」の主体である居住者の水利用動向把握に関する研究は少なく,本研究ではこれを将来に亘る持続可能な水利用のための重要な課題であると位置付け,「節水行動」を中心に検討する.<BR> <BR> II.調査方法<BR>  本調査は北京市内の公園および街頭5箇所(朝陽公園,龍潭湖公園,玉淵潭公園,西単,国貿)において,中国語による調査票を用いた直接面接方式により実施し,合計300名の回答を得た(男性141名・女性159名).<BR> 本調査はその手法上,サンプルに限定性はあるものの,生活に密着した水の利用に対しては,日常的な行動と認知があると考えられることから,分析に当たっては属性間の偏りについては留意しつつも,これを居住者自身の「環境情報」として取り扱うことを重視し解釈を行った.<BR> <BR> III.居住者の水資源評価と節水行動<BR>  調査の結果,対象者全体の「南水北調」に対する認知は84%と高く得られていることが明らかになったが,水資源に対する時系列での主観的な危機意識では,将来的にもその深刻さは継続することが認識されている.また,こうした意識を反映し,生活空間で水を利用する主要場所別では,全体的に高い節水行動率がみられた.さらに,近年では「節水」に関する機器の商品化も進んでおり,節水機種も概ね30%の利用率がみられた.<BR> 一方,節水を促す市政府によるスローガン看板掲示も市内随所で見られるものの,節水を具体的に意識付けるための「節水教育」の充足度については,南水北調認知者の中でも,「少ない」「やや少ない」をあわせ51.8%と過半数にのぼり,水資源の教育を含むソフト面での対策も急務であることが示唆された.<BR> <BR> IV.技術導入・政策による節水対策<BR>  節水の技術面においては,現在でも生活の高度化により水の使用量自体は依然増加しているものの,節水機器の開発・普及促進や,工業用水のリサイクル技術の導入により節水量も着実に増加傾向にある.一方,政策面においては,北京では既に時期(季節)・時間による供水制限の実施や,2004年には1㎥あたり水道料金を,前年までの2.3元から3.8元へと大幅に値上げするなど,Cost-Incentiveによる施策も講じられているほか,既に試験的に実施されている人工降雨技術の確立による「新たな水源の確保」,さらには「退耕還林(農業耕地を水源涵養地の造成のために林地に戻す)」の奨励による「水源保護」が進められている.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691665920
  • NII論文ID
    130007013772
  • DOI
    10.14866/ajg.2007s.0.142.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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