山地湿原におけるハイマツの年輪幅変動

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  • The fluctuation of Pinus pumila tree-ring width in alpine moor.

抄録

<BR>はじめに<BR>  群馬・新潟・福島3県の境界にあたる奥利根・奥只見山地には多数の湿原が散在している。この地域の中央に位置する平ヶ岳の頂上部は縮小傾向にある。この湿原の縮小は非湿原植物の侵入に起因する事から、非湿原植物の生育が可能になるような何らかの環境の変動が発生したと考えられる。平ヶ岳湿原はほとんど人為の影響を受けていないことから、この環境変化は気候の変動によって発生していると推測できる。そこで、平ヶ岳湿原での気象環境の変動を明らかにするために、湿原へ先駆的に侵入しているハイマツの成長量変動を年輪幅の計測により調査した。その結果を気象データと比較してハイマツの成長量を決定する要因を検討し、平ヶ岳湿原の縮小の原因を考察した。<BR><BR> 方法<BR>  ハイマツの成長量はこれまで年枝伸長量の計測によって調査されてきたが、20~30年以上の成長量を遡る事は困難である。そのため、本研究では湿原周囲のハイマツを10本伐採し、年輪幅を計測して成長量の指標とした。気象データは平ヶ岳に近く長期的に観測を行っている尾瀬沼の各月の平均気温・降水量・晴天日数・雨天日数・降雪日数および年最大積雪深を抽出した。前年から当年にかけてのこれらの値と年輪幅変動との相関係数を計算し、どの時期のどの気象要素が年輪幅変動に影響を及ぼしているか検討を行った。また、長期的な気象との関連を見るために、尾瀬沼よりも前から気象観測が行われている只見の平均気温と降水量、年最大積雪深についても相関係数の計算を行った。<BR><BR> 結果と考察<BR>  調査によって得られた年輪幅のサンプル毎の平均値は0.218mmから0.686mmと大きな差があるために、各サンプルの年輪幅の平均値を標準値として偏差を各年毎に算出しその平均をもってハイマツの成長量の指標とした。ハイマツの年輪幅は徐々に広くなっており(図1,2,3)、湿原はハイマツの成育に適した環境へ変化してきていると考えられる。1970年代後半から1990年代にかけては急激に年輪幅が大きくなっており、この期間にハイマツの成長を増加させる環境の変化があったと考えられる。<BR>  気象要素と比較の結果、夏期の気温と負の相関が(図1)、春期の降水量と正の相関があった(図2)。また、年最大積雪深にも負の相関が認められた(図3)。以上から、平ヶ岳に生育しているハイマツの年輪幅を影響を及ぼしている気象要素は、夏期の気温と春期の降水量、年最大積雪深であることが明らかとなった。<BR>  この地域では、夏期の気温の低下傾向(渡辺 2001)および積雪量の減少傾向(図3)が認められていることから、平ヶ岳湿原へのハイマツの進入はさらに進行し、湿原面積は縮小すると考えられる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691690752
  • NII論文ID
    130007013806
  • DOI
    10.14866/ajg.2007s.0.110.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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