京都府長岡京市における森林ボランティアと伝統的コミュニティの紐帯

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • Ties between forest volunteer and traditional community in Nagaokakyo, Kyoto

抄録

<BR>1.問題意識<BR>  過疎化の進む農山村地域住民のみで自然資源管理を担うのは困難である。近年、森林ボランティア活動の展開に見られるように、非農山村地域住民の森林管理参加への意欲が高まっており、また、企業のCSR活動に代表されるように、非農山村地域住民が自然資源管理の一端を担う社会的責任がますます認識されるようになっている。このように、自然資源に近接して居住する者だけでなく、日常的には自然資源と疎遠な者とが協働を指向することが、自然資源管理の今日的な特徴であり、課題となっている。<BR><BR> 2.研究の視点と方法<BR>  本稿のテーマ―複数の利害関係者の協働(co-management)―に接近するために、複数の行為者たちが取り結ぶ関係に着目する。この視点は、高田保馬やグラノベター等、社会学で論じられてきた紐帯論にその源流を持ち、地理学の分野でも小栗の山村・漁村共同体に関する先行研究がある。<BR>  グラノベター(1974)によれば、紐帯はコンタクトの回数によって、強い紐帯と弱い紐帯に分類される。経験的に、弱い紐帯は、コンタクトの頻度が高い「強い紐帯」で結ばれる小集団を結ぶことが知られる。そこで、弱い紐帯を担保することが、コンタクトの低いアクターによる森林の共同管理の必要条件となる。以上より、森林管理に関する弱い紐帯の成立条件の導出を本事例分析の主眼とした。2007年4月以降、長岡京市を数度訪問し、行政職員、地域代表者にたいして聞き取り調査を行った。<BR> <BR> 3.森林ボランティア活動の紐帯に着目した分析<BR>  長岡京市は京都市の南西に隣接し、本来、近郊農村としての性格を有する地域である。宅地化、工業地化の進んだ現在も、市域の4割を占める山林(西山と呼ばれる)沿いには、寺社を中心とした集落が存在するなど、伝統的なコミュニティが強く残っている。また、ここでは多くの成員が、伝統的に私有林を所有している。その一方で、都市圏に近いことも影響して、他の利害関係者が頻繁に関与してきた地域でもある。近年の森林ボランティアの介入はその一例である。<BR>  森林を巡っては、伝統的なコミュニティの成員と森林ボランティアの間で便益の相違がある。一方で、コミュニティの成員にとって森林は生産は行えないが管理せねばならない「負債」に類するものとして捉えられている。他方で、ボランティア活動者にとっては、環境保全実践、自己実現、やレクリエーションの場として捉えられている(山本編2003)。ボランティアがなされることは各主体にとって望ましい。しかし、森林管理に対する動機が異なるために、社会全体としてもっとも望ましい形でボランティアがなされるとは限らない。<BR>  しかし、西山の森林ボランティアでは各主体がおおむね満足している。その理由の一つとして、市職員および市長が、主体間の調整を行ってきたことがあげられる。例えば、地権者に対するボランティアの情報公示を通して、地権者のボランティアへの信頼を担保すること、などである。このように本事例では、仲介者としての行政の役割こそが、地権者およびボランティア双方の紐帯を保ち、全体として弱い紐帯が形成される要因となっている。<BR> <BR> 4.仮説の導出と今後の課題<BR>  以上の分析より、複数の利害関係者の協働の成功条件として、仮説「強い紐帯により結ばれた小集団(本事例では伝統的なコミュニティ)が第3者(本事例では市職員および市長)の仲介により他の小集団(本事例では森林ボランティア)と弱い紐帯を形成すること」が導出された。今後事例の歴史性に配慮して本研究で導出された仮説を検証したい。<BR> <BR> 5.文献<BR> 山本編(2003)『森林ボランティア論』日本林業調査会<BR> 小栗宏(1983)『日本の村落構造』大明堂<BR> グラノベター(1974:1998)『転職―ネットワークとキャリアの研究―』渡辺深(訳)ミネルヴァ書房

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691722496
  • NII論文ID
    130007013852
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.3.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ