環境保全型農業による地域農業振興の意義と課題

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タイトル別名
  • Significance and Problem of Regional Agriculture Promotion with Environment Friendly Agriculture
  • A Case Study of Onion Organization in JA Ashikita,Kumamoto
  • JAあしきたたまねぎ部会の取り組みを事例として

抄録

<BR>I.はじめに<BR>  「有機農業推進法」(2006年12月施行),「農地・水・環境保全向上対策」事業の開始(2007年4月)など,食の安全・安心,生産環境の保全を通した地域活性化へ向けた法律や政策が始まった.相次ぐ食品の安全性問題の表面化や国民の健康志向の高まりは,上記の法制度の実施と相まって,今後の国内産地の振興方向として,有機農業の普及に連なってくる可能性もある.しかし,現状において有機農業の面的拡大には,生産過程における新たなコスト負担の問題や労働強化,販路開拓の問題など,全国的に認められる共通の課題がある(宮地,2007)ことから,「理念」と「現実」にはギャップがある.その一方で,環境保全型農業の普及の実態をみると,そこには地域的な差異を伴いながらも,確実に取り組みが拡大してきていることがわかる.「エコファーマー制度」の認定を受ける農家数の推移はこのことを示しており,近年ではJAの部会単位で取り組みを進めている事例も多くなっている.<BR>  本報告では,熊本県南部に位置する芦北地方において(JAあしきた管内)取り組まれているたまねぎの環境保全型農業(減農薬・減化学肥料栽培)が生産者の経営と地域農業振興にどのような意義をもちえているのかを考察する. <BR> <BR> II.地域農業の概要とJAあしきたたまねぎ部会の取り組み<BR>  事例対象であるJAあしきたは,熊本県南部に位置する田浦町,芦北町,津奈木町,水俣市を管轄している.管内は,年間平均気温16.3度,年間降水量2,145mmの温暖多雨を特徴した地域である.農業生産では柑橘生産が盛んであり,甘夏みかん(495ha:2005年),不知火(297ha:同)は全国有数の生産規模を有している.果実の農業粗生産額は,上記4町の総額の41.4%(2000年)を占めており,それに畜産(20.7%),野菜(16.8%)が続く.果実,畜産の生産額が1990年以降,漸減傾向にあるなかで,野菜のそれは漸増傾向にあり,地域農業のなかで一つの柱へと成長してきている.<BR>  芦北地方におけるたまねぎ生産は,1961年に水俣市で水田裏作として栽培が始まったことに起源がある.現在,芦北地方で生産されるたまねぎは「サラダたまねぎ」として出荷されている.温暖な気候条件を活かして極早生,早生品種を中心に栽培され,3月上旬から出荷されることから全国で最も早く「新たま」を出荷する産地として成長してきた.極早生品種,早生品種は水分含量が多く甘みがある(辛味が少ない)ことから,「(生で食べる)サラダ用たまねぎ」として売り出してきた.生食ゆえにたまねぎ部会では,1988年より減農薬・減化学肥料栽培の取り組みを開始した.ここでの減農薬・減化学肥料栽培の特徴は,(1)土づくり:堆肥2~4t/10aによる土づくり,元肥にサラたまちゃん専用肥料(有機率50%,JAで開発)を使用,(2)雑草・病害虫防除対策:除草剤を禁止し,黒マルチによる雑草対策,殺菌剤は2回まで使用可能(月1回以内),(3)その他:育苗床において太陽熱消毒を実施(30~45日),に集約される.芦北地方において生産されるたまねぎは,全量JA系統出荷によって商品化されており,上記の取り組みも部会内で徹底されている(2006年産の生産者は139名).組織的な取り組みが継続されている背景には,「水俣」が抱えてきた「歴史」や後述するように個々の生産者がこの取り組みに経営的な利点を実感しているからである.たまねぎ部会の取り組みは,地域農業振興の面からも注目されており,1997年度の環境保全型農業推進コンクールで農林水産大臣賞を受賞するなど,高い評価を得ている.<BR> <BR> III.環境保全型農業の経営的・地域的意義と課題<BR>  たまねぎの生産農家は,環境保全型農業を継続する上で,(1)太陽熱消毒と黒マルチによる雑草対策によって,除草作業が省力化されたこと,(2)たまねぎ選果場の完成(1995年)や集荷コンテナの利用によって,収穫・調整,出荷作業が大幅に省力化されたこと,(3)規格外品の加工向け出荷等を評価している.2006年産のたまねぎ生産者の平均年齢は62.6歳(JAあしきた調べ)であるが,定年帰農によって担い手が現状では確保されている点も注目される.消費者交流会,小中学生の体験学習,試食販売会等の取り組みは,安全・安心な「サラダたまねぎ」ブランドの形成に役割を果たしている.<BR>  一方で,市場出荷を基本としたたまねぎの販路は,4月中下旬以降,佐賀県産をはじめ各産地との市場競争に直面する.量産型の産地とは異なるマーケティングの構築や,産地内でのリレー出荷による実需者への安定供給の実現などが課題となっている.<BR><BR> 【参考文献】<BR> 宮地忠幸 2007.日本における有機農業の展開と地域農業振興.経済地理学年報53:41-60.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691749248
  • NII論文ID
    130007013906
  • DOI
    10.14866/ajg.2007f.0.53.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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