平地林の豊穣

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タイトル別名
  • Richness of flat plain forests
  • Diversity of plant and mushroom resources in Vientiane plain
  • ヴィエンチャン平野の植物・菌類資源の多様性

抄録

<BR>1.はじめに<BR>  メコン川の縁辺に広がるラオス平野部は水田が卓越する一方で、多種多様な野生生物資源を育む平地林があり、そこでの資源採取活動は人々の生活を支えてきた。近年の著しい近代化の進展と都市の発達は、農村における開田の進展、商品経済の浸透を通じて、森林資源利用に大きなインパクトをもたらしている。<BR>  本報告は、2004年から2007年にサイタニー郡ドンクワーイ村において行った森林資源採取に関する参与観察調査および聞き取り調査をもとに、平地林の分類とそれぞれにおいて採取される植物・菌類資源を概観し、その多様性の背景を検討する。<BR> <BR> 2.平地林の分類と資源採取<BR>  ドンクワーイ村の平地林で採取される資源として、植物およそ30種、キノコおよそ20種の利用を確認した。資源の利用法には、食用・薬用・燃料用などがあるが、食用が圧倒的に多い。<BR> 1)湿潤常緑林<BR>  比較的湿潤で大径木が点在し、各層の樹木に林冠が覆われ、林内は暗く鬱蒼としている。<BR>  雨季(5~10月)を中心に、食材として樹木の葉・果実が採取される。7~9月は、同じくシロアリタケが採取される。<BR> 2)乾燥フタバガキ林<BR>  フタバガキ科のShorea属やDipterocarpus属などの中高木が優先する。林冠は疎開しており、林内は明るい。<BR>  年間を通して、薪材として樹木の枝や幼木が採取される。雨季(5~10月)を中心に、食材として樹木の葉、草本、菌根性キノコなどが採取される。<BR> 3)氾濫原林<BR>  タケ類や中低木が点在し、林地の大部分が雨季の後半(7~10月)に水没する。<BR>  年間を通して水辺を好む草本、乾季(特に3~5月)に乾燥に強い草本が食材として採取される。雨季の初期(5~6月)はタケノコ類、キノコが同じく採取される。<BR> 4)産米林<BR>  水田の筆間もしくは筆内に、開田前に成立していた森林の樹木が何らかの意図で残される、もしくは、植栽されている。<BR>  樹木の枝は一般に薪材として採取される。フタバガキ科樹木の樹液は、燃料や防水材として採取される。<BR> <BR> 3.平地林の豊かさの背景<BR>  燃料等のための資源採取に大きな季節変動は見られないが、食用とされる資源採取には大きな季節変動が認められる。雨季と乾季がはっきり分かれるモンスーン気候下においては、地形に微妙な高低があるだけで、環境が大きく異なる。小河川に近い氾濫原林では、雨季の後半に水没してしまうため、一部の浸水を好む植物を除き、植物・菌類資源は地上に水のない時期に成長・発生するものと考えられる。一方、これ以外の水没しない平地林では、資源の多くが雨季に成長・発生しているものと考えられる。<BR>  また、乾燥フタバガキ林や産米林は、人々の生業活動によって明らかなインパクトを与えられている。乾燥フタバガキ林は頻繁に薪の採取が行われ、乾季に行われる野焼きの火が林内に延焼することもしばしばある。産米林は樹木の枝が薪として切り払われ、農作業に邪魔になる草木は除去される。植物・菌類資源の生育環境が、人間の生業活動の結果として提供されている可能性を指摘できる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691782400
  • NII論文ID
    130007013971
  • DOI
    10.14866/ajg.2007f.0.131.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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