「平成の大合併」後の市町村における地域内分権の状況

DOI
  • 美谷 薫
    うつのみや市政研究センター・専門研究嘱託員

書誌事項

タイトル別名
  • Intra-municipality Decentralization after "the Consolidation of Heisei Era"
  • A Case Study of Consolidated Municipalities in Okayama Prefecture
  • 岡山県における合併市町村の動向を事例として

抄録

<BR>1.はじめに<BR>  1999年度以後の全国的な「平成の大合併」の潮流によって,市町村の再編による広域化が著しく進展してきた.この合併による急激な変化に対応するために,旧合併特例法改正のなかで地域自治区に代表される「地域自治組織」が制度化されるなど,旧市町村の空間的枠組を公的に残存させる事例が一般的となってきた.また,少子高齢化の進展や市民協働のまちづくりの必要性が高まることで,「狭域行政」や地域内分権の仕組みづくりが市町村行政のなかで重視されるようになってきた.<BR>  このような状況を受け,本報告では,地方都市圏から中山間地域まで多様な特性のもとで市町村合併が進展した岡山県を対象として,合併市町村の組織機構と地域自治組織の動向を題材に,新市町村の地域内分権の現状と課題を明らかにする.研究にあたっては,合併市町村へのアンケート調査や一部市町村における聞き取り調査を実施した.<BR><BR> 2.岡山県における市町村合併の展開<BR>  岡山県における「平成の大合併」は,2004年10月の高梁市・吉備中央町の事例によって開始された.その後,2006年3月までに17件の合併が実施され,10市56町12村が15市12町2村へと再編された.<BR>  アンケート調査によれば,17の新市町村のうち,合併の背景として「行財政の効率化・行政改革の推進」が12市町村で挙げられ,「全国的な市町村合併の潮流」(11市町村),「財政状況の悪化・地方交付税の減額」(8市町村)がこれに続いていた.これらの点からは,小規模町村が多く残存していた岡山県では,近年の財政状況の悪化や地方交付税をめぐる制度改革が各市町村を合併に導く原動力となっていたことが読み取れる.<BR><BR> 3.合併市町村の組織機構と地域行政機関<BR>  17の合併市町村の地域行政機関を,組織機構(庁舎の形態)の面から整理してみると,主たる事務所に準ずる機能を有する事務所(「分庁舎」)が9,産業振興・建設分野の事務を所掌する係相当以上の組織を有する支所(「総合支所」)が48,その他の支所(「支所」)が2となった.<BR>  これらの合計が,合併関係市町村数の66から主たる事務所(「本庁舎」)の17を引いた49よりも多くなるのは,同一庁舎のなかに複数の機能が入居する事例があるためである.例えば,合併時の真庭市では,「本庁舎」の位置づけがなされた勝山庁舎に,議会や市長部局の総務,企画振興,公営企業の3部が置かれていたほか,「総合支所」に相当する勝山支局に,本庁の所掌業務と重複する総務,地域振興を除いた3課が設置されていた.<BR>  また,支所等の地域行政機関の権限を検討するために,その長の位置づけをみると,支所等が本庁の部局の下に位置づけられている岡山,倉敷,津山,井原の4市では,配置職員数は他市の総合支所と遜色はないものの,その職階が相対的に低くなっている.<BR><BR> 4.合併市町村の地域自治組織等の設置状況<BR>  アンケート調査によれば,17の合併市町村のうち,12市町から地域自治組織等を設置しているという回答があった.その内訳は,合併特例区が1市,地域審議会が6市町,市町村の独自組織が5市町であった.<BR>  これらの地域自治組織等の設置市町村は,合併関係市町村間での規模の差が大きいか,関係市町村数が多い例が中心である.アンケート調査では,合併の際に考えられ得るデメリットとして,「住民の声が届きにくくなる」との回答が最も多く(11市町),組織設置の理由でも「合併に対する住民不安の払拭」や「住民の意見を活かしたまちづくりの推進」が挙げられていた。これらの点からも,合併時に行政体制の激変が見込まれる場合に,地域自治組織等がその受け皿として期待されていたことが改めて確認される.<BR><BR> 5.おわりに<BR>  以上の点からは,岡山県の合併市町村では,合併に伴う激変緩和措置に重点が置かれる体制が採用される傾向にあったと考えられる.しかし,地域行政機関についてみると,合併から時間が経過するとともに事務執行の効率化が優先される傾向にあり,事務分担の問題や行政改革推進の観点から,合併から約1年で「総合支所」を「支所」に移行させた事例も確認された.<BR>  このため,今後の行政サービスの低下や住民主体の地域づくりに対して,地域自治組織等の役割がますます大きくなるものと予想される.あわせて,合併時に旧市町村や小学校区を単位とした地域住民組織を新たに立ち上げる例もあり,両組織をどのように効果的に運用するかが新市町村の地域経営の重要な課題になるものと考えられる.

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691847680
  • NII論文ID
    130007014104
  • DOI
    10.14866/ajg.2007f.0.145.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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