亜高山帯林の有無が東北地方の山地の積雪分布に与える影響

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  • Effect of the sub-alpine forest on the mountain snowpack in northeastern Japan

抄録

<BR>1.はじめに<BR>  東北地方の代表的な亜高山帯針葉樹林であるオオシラビソ林の分布は、積雪環境に強く規制されているとされるが、オオシラビソ林の存在が積雪環境に与える影響については不明の点が多い。本研究では東北地方の主要山岳域を対象に、衛星画像を用いて、オオシラビソ林の有無が積雪分布に与える影響について検討した。<BR> 2.研究方法<BR>  東北地方のほぼ全域をカバーするLANDSAT TM+のデータ(1987年5月21日撮影)を元に山岳域の積雪分布を明らかにした。積雪分布の解析には、斉藤・山崎(1999)によって提案されたS3指標を用い、0をしきい値として積雪域の判別を行った。このS3指標による積雪分布データと、地形データ(「数値地図50mメッシュ標高」より作成)、植生データ(環境省の自然環境GIS)に250m間隔のポイントデータを重ね合わせて解析データとした。山地毎の融雪・降雪環境が多様であるため、各山地を100m間隔の標高クラスに分けて、クラス内の積雪被覆率が50%以上となる、最も低い標高帯より上部を“積雪帯”と見なし、この範囲について斜面方位毎の積雪被覆率を比較した。<BR> 3.結果<BR>  オオシラビソ林に広く覆われている八甲田山、八幡平地域においては斜面方位による積雪被覆率の変化は比較的小さいのに比べて、顕著なオオシラビソ林を欠く焼石岳や月山といった、“偽高山帯的景観”が広がる山地では、冬季季節風の風上側にあたる西向き斜面において積雪被覆率が小さい傾向が認められた。また、オオシラビソ林が部分的に見られる秋田駒ヶ岳地域においても、オオシラビソ林が見られない山岳域と同様の積雪分布パターンが認められた。<BR>  このような、植生と積雪との関係は、オオシラビソ林が成立することで山地の空気力学的抵抗が増大して、積雪分布の不均一性が緩和されたことを示している。奥羽山地のオオシラビソ林は後氷期後半に拡大したことが指摘されているが、拡大に際して、その分布が積雪環境に規制されるだけでなく、逆にオオシラビソ林が成立することで積雪環境が変化するという側面もあると考えられる。現在、八幡平の松尾鉱山周辺では煙害によって疎林化が進行して吹きだまりが形成され、雪食が起きている斜面が見られるが、これは人為影響によって亜高山帯林が衰退し、再び偽高山帯的要素の強い景観に退行しつつある現象とみなされる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691878016
  • NII論文ID
    130007014121
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.139.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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