アルプス以北における近年の気候変動とその影響について

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  • Recent Climate Variation and its Effect in the Alps North

抄録

<BR>I 気候変動とその影響<BR>  中欧を中心とした歴史時代の気候変動が、ブドウ収穫期日の変動やブドウ栽培地域の変動などから、知られてきた。ブドウ栽培の北限地域において、年々の生育期間の天候が収穫におよぼす影響は大きい。主としてワイン用のブドウであるが、長期の変動は栽培品種や醸造方法などにも影響したと考えられる。近年の世界的なワイン産地の変化の中で、欧州でも従来の主産地では生産量が急減する一方、北方では増加し、これには温暖化の影響が指摘されている。こうした気候変動の影響の解明は、一方で歴史時代の気候変動研究にも資することが期待されるが、ここではその一つとして、アルプス以北における気候変動と現在見られるワイン生産の変容のかかわりの分析を試みる。<BR> <BR> II 中欧のワイン生産地域<BR>  ドイツではワイン栽培地区(ベライヒ)は、主要な13の地域(ゲビート)にまとめられる。このほかに、南東部のレーゲンスブルク、中部のカッセル、北部のポツダム周辺に加え、バルト海に100kmほどのポンメルンのノイブランデンブルク付近にも小規模なものがみられる。いずれも小規模な丘陵地域にあたっている。栽培面積は比較的広い8地域が大部分を占め、狭小な5地域の合計は2.5%にしかならない。生産量もほぼ同様である。単位面積当生産量は、ザーレ・ウンシュトルートやザクセン、ミッテルラインなど北辺では少ない。<BR> <BR> III 平年の気候条件<BR>  ワインの品質には、土壌、微気候、水はけなどがかかわるが、北限のドイツではとくに天候の影響が大きく、日照、風、遅霜、早霜などが考慮される。ドイツ気象庁(Deutscher Wetterdienst)の、気候資料を使用する。<BR>  平年の気候では5~10月の気候との関係が指摘されている。収穫はラインガウでは19世紀末には10月末であったが、20世紀以降急速に早まり、現在は10月初めである。この期間に日照時間が長く、降水量が少ないことが条件とされている。こうした条件にあてはまるのは、一つは南部でアルプスからかなり隔たった地域、また北東部でバルト海から隔たった地域である。実際、栽培されていない北西部のブレーメンなどは、同期間に降水量は多く、日照時間は少ない。<BR> <BR> IV 近年の生産の変動と気候<BR>  13の地域別の単位面積当収量の、最近の10年間の変化について、クラスター分析の適用により分類すると、およそ南北の地域で差異があるが、さらに複雑な分布がある。各型に属する地域の合成図からは、およそ、他と位相が異なる、変動が大きい、収量が多い、収量が少ないなどの特色がみられる。これは地域の自然的基盤における栽培方法により、超高級、高級、安定、北限などに相当するとみられる。<BR> <BR> V 生産への気候の影響<BR>  ワイン生産の変動が、気候変動と一義的に対応しないことには、以下の要因が考えられる。まずワインの質は栽培面積とは関係なく、高級なプレディカートの割合はとくにラインガウとヘシッシェ・ベルクシュトラッセで高く、アールとザーレ・ウンシュトルートでは低い。また栽培品種が近年大きく変化したことも影響している。ドイツの主要栽培品種の特色は、以下である。白ではまずリースリングで、最良のワインとなるが、収穫量が少なく、晩熟でリスクが大きい。シルヴァーナーは、優良になりうる。ミュラー・トゥールガウは、リースリングとシルヴァーナーを交配したもので、収穫量が多く、リスクが少ないが、高品質にはならない。赤では、まずシュペートブルグンダー(晩熟ブルゴーニュ)という、ピノノワールである。また、ポルトゥギーザーである。かつて白ワインを作る品種は9割近くを占めたが、1980年以降に赤ワイン品種が急増して、2005年には4割近くに達している。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205691971968
  • NII論文ID
    130007014211
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.182.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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