名古屋大学地理学教室の現状と課題

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  • Evaluating the Geography Program at Nagoya University

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抄録

1.はじめに名古屋大学地理学教室は、学内の改組に伴い、文学部・文学研究科地理学講座の4名と情報文化学部地域システム論講座の2名とが結集し、大学院環境学研究科社会環境学専攻地理学講座として2001年4月に発足した。大学院レベルでは、この教員組織に研究科附属地震火山・防災研究センターの1名が加わって、学内で唯一地理学の体系を教え、地理学の学位が取得可能な教育プログラムを提供している。学部レベルでは、従前どおり、文学部2?4年次に地理学専攻が設置されており、文学研究科から移行した4名が専ら教育にあたり,情報文化学部については残りの2名が担当している。2005年度の学生数は、大学院博士前期課程10名、後期課程9名(文学研究科からの移行学生を含む)、大学院研究生2名、学部生26名を数える。このうち大学院には、3名の外国人留学生と2名の社会人学生が在籍している。2003年夏には、新築の環境総合館が竣工して、全教員研究室と院生室・資料室・実習室等が集まり、ひとつの地理学教室の体制ができあがり,名古屋大学では「地理学」の名の下にまとまることで教育体制が強化された。2.学部教育(文学部地理学専攻)の特色学部教育の大きな特色のひとつは、2・3年次に行われる野外実習にある。学生各自がそれぞれのテーマを掲げ、事前勉強→現地調査→分析と考察→報告書作成といった一連の作業を体験する。これを通じて身につけられた「学ぶ自主性」は、各学生の卒業研究や卒業後に大きな力となっている。もうひとつは、地理情報室をフル活用した実習にある。地理学専攻学生が占用している情報室には、ArcGISや統計解析ソフトなどが搭載されたPCが10台以上設備され、学生は3年次までに実際の操作実習を必ず履修する。ここで養われる情報解析力は、野外実習での自主作業や卒業研究で活かされている。こうした特色ある教育を受けた学生の進路は多岐にわたる。3.大学院教育の特色大学院教育の大きな特色のひとつは、自然地理学・人文地理学・地理情報学を三本柱にした専門性と総合性との融合であり,地理学総合セミナーは全教員・全院生が一堂に会して行われる。現教員の専門は、地形学、地理情報科学や災害・防災研究のほか、人文地理学主要分野をカバーする。これらの地理学諸分野を体系的かつ専門的に学ぶことで、博士(地理学)と修士(地理学)が取得できる。また環境学研究科では、地理学教室に足場を置きつつ、関連分野を広く修めることで博士(環境学)と修士(環境学)を取得することもできる。いずれの場合でも、各院生は、主指導教員の個別指導を受けて論文を作成し、地理学総合セミナーでの議論を経たあと、国内外の主要学会で発表することが義務づけられる。ちなみに、2004年に『地理学評論』、『人文地理』、『経済地理学年報』、『第四紀研究』に掲載された院生の論文は10編に及ぶ。なお過去3年間で14名の修士、9名の課程博士(旧制度学生を含む)、1名の論文博士を輩出した。過去3年間の修士取得者の進路は、民間企業4名、公務員1名、教員2名(ほかに社会人2名、後期課程進学4名、留学1名)だった。現在の前期課程在籍者の過半数が、学部レベルでの地理学専門教育の未履修者であり、環境学教育、とくに地理学教育の可能性が広く求められていると認識している。4.教育・研究上の課題新体制が発足して5年が経ち、2007年度に向けて、研究科全体でのカリキュラム改革と、社会環境学専攻での入試制度改革が進行中である。当教室でも、これに併せて大学院レベルでの専門科目の見直しに着手しているが、定員の確保が難しくなっている状況下で、他分野修得者や外国人留学生を積極的に受け入れつつ、一方で高度に専門的な地理学教育との両立をどう図るかということが課題となっている。学部レベルでは、地理学教室の魅力、とりわけ高校生や学部1年生には地理学を学ぶ面白さ、また地理学専攻の学部生には大学院で研究する面白さをいかに印象づけるかが課題となっている。環境学研究科の基本理念のひとつは、各学問領域の専門的研究教育と、学問領域を横断する連携型研究プロジェクトとの融合である。当教室の教員もこれまでさまざまな外部資金による研究プロジェクトに主導的に関わり、災害や防災といった応用的な研究は言うまでもなく、環境問題に関わる基礎的な研究においても、地理学の大きな可能性を示してきた。こうした研究プロジェクトは、国際的な学術交流も視野に入れるもので、実際に院生・学部生を参加させることで、オン・フィールド型思考と国際的視野の両面を培っている。

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参考文献 (1)*注記

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692111872
  • NII論文ID
    10020532266
  • NII書誌ID
    AA1115859X
  • DOI
    10.14866/ajg.2006s.0.48.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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