中山間地域における広域的地域営農の成立条件―長野県飯島町を事例に

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  • Foundations of a Large-scale Region-Farming Group in the Hilly-Mountainous Region: the

抄録

1.研究の視点と目的<BR>  農業経営の集団組織に関するしては,「農業基本法(1961年)で「協業の助長」が提起されて以来,多くの議論が重ねられてきた.特に,1993年の「農業経営基盤化促進法」の成立以来,それを実現する「個別経営体」,「組織経営体」が注目されるようになっている.<BR>  本研究では,市町村域で組織化された第3セクター方式の経営を取り上げる.飯島町の組織的経営は町と「地区」の2重構造を特徴としている.飯島町には4つの地区が存在し,それぞれの地区の範囲で6~19の農業集落によって組織的な農業経営体が設立されている.これらは「集落営農」という既存名称で表現することが困難であることから,本稿では「地域営農」という用語を採用する.飯島町は4つの地域営農によって構成され,町全体として40の農業集落,約1,200戸の農家が参加しておりこれらを「広域的地域営農」と呼ぶこととする.地域営農における「地域」とは,集団組織の管理運営のための計画的空間であり,土地や水の面的つながりを基礎として相互に連携する組織的空間である(金沢,2004).これらの範囲は必ずしも農業集落という限られた範囲において展開されるわけではないことが考えられる.<BR>  本研究では,非農家を含めた広域的地域営農における多様な主体に着目し,彼らによって担われる労働力と相互の連関から,広域的地域営農の成立条件について明らかにすることを目的としている.<BR><BR> 2.研究対象地域と広域的地域営農<BR>  長野県上伊那郡飯島町は長野県南部の伊那盆地に位置し,盆地を東西に挟んでいる日本アルプスからの豊富な河川によって,古くから稲作が盛んな地域である.飯島町の水田畦畔率は18.3%であり,全国一位の畦畔率である長野県の平均値(13.4%)を大きく上回っている.こうした中で,畦畔管理作業が大きな負担となっている.飯島町の広域的地域営農は,農業振興を担う営農センターと営農実践を担う地区の2重構造となっている.営農センターは町役場と農協,農業者が一体となり組織化されたもので,地区は近代前期から明治期まで続いていた旧村を単位に組織化されている.飯島町における4つの「地区」には,それぞれに法人組織(政策的用語では集落営農法人)が設立されている.飯島町では,1970年代に農業構造改善事業や大規模な圃場整備が行われ,水稲協業組合が組織された.1986年に営農センターを立ち上げるにあたり,13の水稲協業組織を4つに統合し,地区ごとの組織的な営農を立ち上げた.そして2005年から各地区の機械利用組合を法人化して,集団的な農業をより強化させている.<BR>  本研究では4地区の中から本郷地区を調査対象地域に選定した.本郷地区を選定した理由は,4法人の中でも収益率が高いこと,耕作放棄地がほぼ無いこと,そして地区全体としてブロックローテーションと呼ばれる集団転作を実施ししていることが理由である.集団転作において全農地が「公益」なものとしてみなされるため,高度な合意形成が必要になる.<BR><BR> 3.調査結果の概要<BR>  本研究は2つの調査から構成されている.1つ目の調査である農業集落への悉皆調査によって以下のことが明らになった.まず,就業構造に関しては,隣接する駒ヶ根市の製造業に若年~壮年層男性が多く勤めており,30~40歳代の女性は主婦業,50~60歳代女性は町内におけるパート勤務が主であった.総じて農外就業機会に恵まれている地域である.そして,小規模農地保有世帯の卓越,法人組織への農作業委託の高い依存度,地主や耕作者における農作業の出役率の高さ,非農家の地域営農への参加が明らかとなった.法人組織においては,限られた農地の中で,地区出資の担い手法人と個人経営法人が積極的な連携を図り,担当地域をそれぞれ分担していた.さらに地区出資法人は他地区の出資法人とも施設の共同運営や収穫物の加工・販売等で連携を図っている.こうしたことから,地域営農が販売部門などを中心にさらに広域化する可能性がある.<BR>  一方,農家に対する調査からは以下のことが明らかとなった.法人組織が兼業農家や高齢者を中心に組織されていること,各農家類型によって地区出資法人との連関の仕方に差異があること,農作業の高い出役度の背景に経済的動機と地主の農地管理作業に対する心情的動機があることである.心情的動機に関しては,「周囲からの視線」,「農地管理作業に対する意味・価値の付与」,「家産としての農地」などの存在が挙げられた.農地管理作業に出役する世帯の構成員は,約77%が60歳以上の者で,さらに約90%が男性によって担われていた.農地管理作業に対する性別的役割が付与されている可能性が高い.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692145408
  • NII論文ID
    130007014473
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.145.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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