発展途上国における小地域統計の現状と利用上の課題

DOI
  • 遠藤 尚
    財団法人 統計情報研究開発センター
  • 小西 純
    財団法人 統計情報研究開発センター

書誌事項

タイトル別名
  • Small area statistics and the issues for utilization in developing countries

抄録

1.はじめに<BR> 地理学を含め、人文社会学分野において、発展途上国の統計データは、従来、精度の低さなどを理由にあまり活用されてこなかった。特に、下位レベルの行政単位別統計データを用いた分析事例は、精度の問題に加え、入手が困難なこともあり、ほとんどみられない。しかし、近年、国連の「2010年世界・人口センサス計画」を始め、国連、世界銀行、IMFなどの国際機関が、国内、国際的な開発計画、政策策定などの主要な情報源として、各国政府統計の整備、品質向上を目的とした活動を行っている。このような途上国への援助を含めた国際的な動きを受け、発展途上国における統計データの整備状況も改善しつつある。<BR>  本報告では、JICAの技術協力プロジェクトなどを通じて、政府統計の整備、品質向上に日本が援助を行ってきたインドネシア、およびカンボジアを事例として、発展途上国における統計整備の現状と比較的下位レベルの行政単位別データを利用した分析事例を紹介する。また、これら2国の事例から、発展途上国における小地域統計の利用上の問題点についても言及する。<BR><BR> 2.事例2国における政府統計の整備状況<BR> インドネシアでは、1960年代から人口および農業センサスが開始され、1980年以降は、西暦年の末尾が0の年に人口センサス、3の年に農業センサス、6の年に経済センサスが行われている。また、家計調査、社会経済調査など各種統計調査も数多く実施されており、発展途上国の中では統計資料が比較的整備された状況にある。近年では、地方分権化に伴い、地方行政の基礎資料として小地域統計の必要性が高まり、2006年から2年間、日本の支援により、各センサスの最新データについて州~郡(Kecamatan)レベルに至るデータベースの整備などが行われた。<BR>  カンボジアでは、長らく続いた政治的混乱以降、1998年に初めて人口センサスが実施された。2008年には、UNFPAや日本などの援助により第2回人口センサスが行われ、2010年には経済センサスの実施が予定されている。2008年人口センサスの結果については、現在、コミューン(村の1つ上位の行政単位)別データを用いたセンサス・アトラスなど、各種報告書が作成されている。<BR><BR> 3.事例2国における小地域統計分析<BR> インドネシア、ジャワ島西部の農村社会、経済については、これまで多くの実証研究が行われてきた。農家率や土地所有経営状況、農家による主要農業活動など、主要な項目について、ミクロレベルの実証研究と2003年農業センサス郡別データを比較した結果、地域的な分布状況はほぼ一致していた。さらに、郡別データの分析では、道路や鉄道などの交通機関、大都市との位置関係などから、ジャカルタなど大都市周辺の近郊農業地域の分布を新たに確認することができた。また、インドネシアについては、ジャワ島、ジャカルタなど一部の地域について、人口センサスの地域メッシュ統計やCensus Block別統計データ・境界データの作成も試みられている。Census Block別のデータを用いて、中央ジャカルタ市の民族分布について分析した結果、未だに植民地時代の民族分布の特徴を残していることが明らかとなった。<BR>  カンボジアについては、コミューン別人口センサスデータの分析から、プノンペンおよび主要道路周辺地域、南東部、国境に近い縁辺地域などにおいて、特徴的な人口分布、人口構成がみられることが明らかとなった。また、1998年センサスとの比較から、プノンペン中心部では既に、人口の減少が始まっていることが確認された。<BR><BR> 4.利用上の課題<BR> 以上のように、発展途上国で近年整備が進んでいる、比較的下位の行政単位別統計データは、対象地域の特徴を広域的に把握するための地域分析に有効であるといえる。しかし、調査内容や行政境界の頻繁な変更、過去のデータの未整備などにより、時系列的な分析は難しい。また、統計データと比較して、GISを利用した地域分析に必要な境界データなどの整備が進んでいない、面積値に信頼性がおけない、依然として精度の低い項目も含まれるなどの問題もある。加えて、データが作成されても提供体制が整っていないため、外部者による入手が難しいことも問題である。このような課題解決のためにも、地図やGIS、統計データに関する知識を有する専門家が、発展途上国の統計整備に積極的に係わることが必要であろう。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692147968
  • NII論文ID
    130007014479
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.16.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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