郊外駅前住宅地との比較からみた都心住宅地の特徴

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タイトル別名
  • The characteristics of downtown residential areas compared with the residential areas adjacent to suburb stations
  • – A case study of the major core city Fukuoka -
  • ‐地方中核都市福岡を事例に‐

抄録

1はじめに<BR>  近年,大都市圏では都心の人口増加現象に社会的関心が集まっているが,地方中核都市においても同様の兆候が確認されている.都心の人口増加現象に対する根本的な関心は,近年になって都心に再び人が居住し始めたメカニズムを解明することにあると思われる.しかし,同現象は都心だけの問題ではなく,都市圏で起きている住宅需給構造の変化を受けた結果とみる方が的確である.そのため,都心に人が居住するメカニズムを探るには,分析対象を都心のみに限るのではなく,都心と同様に近年人口が増加している他地区の住宅地を含めた都市圏スケールでの視点から分析を行う必要がある.以上を踏まえ,本研究では,都心と同様に近年人口が増加している地区との比較から,都心居住者の住民像を分析することで,都心の住宅地としての性格を明らかにすることを目的とする.<BR><BR> 2分析方法<BR>  まず,近年人口が増加している地区を人口分析により選定した(図1).1995-2000年に人口が800人以増加したメッシュを人口増加地区とみなすと,都心および郊外駅の直近で人口が増加している.そこで,都心の住宅地として西鉄福岡駅に隣接する4地区(薬院1・2・3丁目・平尾1丁目,以下薬院地区)を,郊外鉄道駅の直近にある住宅地として,JR博多南駅の周辺地区(福岡市南区弥永2・3丁目・筑紫郡那珂川町中原2・3丁目・松木1丁目,以下博多南地区)を詳細調査地区に設定した.<BR>  次に,これらの地区において住民を対象としたアンケート調査を行った.主な調査項目は,住民の属性・出生地・居住経歴・居住年数・住宅の取得状況・将来の居住意向・現住地への転入経路などである.<BR>  調査は,全12,858の郵便配達先に配達地域指定郵便を利用して配布と回収を行った.回収数は薬院地区が893票,博多南地区が239票,住民基本台帳の世帯数に対する回収率は薬院地区が12.7%(N=7,009),博多南地区が11.6%(N=2,062)である.なお,薬院地区と博多南地区では集合住宅居住者がそれぞれ96%(N=879)と67%(N=238)と多くを占めるので,分析では集合住宅のみを取り上げる.<BR><BR> 3調査結果の概要<BR>  両地区では次の点で共通性がみられた.まず,居住者の年齢は,分譲居住者と賃貸居住者で異なっており,分譲は40~60歳代を中心とする幅広い年代によって占められているのに対して,賃貸は約半数が35歳以下であり,20~30歳代が卓越する.いずれも様々な世帯構成が確認されるが,多くは家族員数の少ない世帯である.また,勤務地や通勤時間についても,地区や分譲・賃貸による差はさほどみられず,多くは30分圏内に就業するホワイトカラー層である.両地区とも1990年以降に地区内に入居した者が大半を占めている.定住意向に関しても両地区において明確な差は確認できず,分譲で高く,賃貸で低い傾向を示す.両地区とも買物や通勤の状況など似通った住宅地の条件を持っており,居住者は生活上の利便性の高さを住みよさとして認識している.<BR>  両地区で異なっているのは,賃貸住宅ののべ床面積で,博多南地区のほうが薬院地区より10_m2_程度広い.<BR>  都心にある薬院地区の分譲居住者は,単身を含め夫婦のみであるか,子供の数が少ない,あるいは既に子供が独立し離家している世帯がほとんどである.彼らが地区外に積極的に出て行く理由は乏しいため,都心に住み続ける可能性は高いだろう.一方,賃貸居住者は,若い世代が多く定住意思もさほど高くないので,いずれ地区外へ転出するものとみられる.しかし,住宅地としてみれば小規模世帯の住宅需要を受け入れることで,常に一定程度は住民の入れ替えがおこることになる.したがって,都心の住宅地は,加齢と共に年齢が上がる定住層だけでなく,住民が短いサイクルで入れ替わる賃貸層がある程度いるために,地区人口の再生産が起こり,著しい人口減少や高齢化が起き難い住宅地であると考えられる.<BR>  これまで大量の住宅需要を受け入れてきたのは,郊外に分散して開発された戸建住宅地であった.しかし,現在,都心や郊外駅の直近などに集合住宅を中心とした住宅地が生まれ,人々の居住に対する選択肢が増えている.居住地は家賃負担力や住宅購入価格だけでなく,生活上の利便性や専有面積など,いくつかの条件との相互関係で選択されている.今後,都市圏にある住宅地の中で選別が進むと考えられるが,都心住宅地と郊外駅前住宅地は,小規模世帯の需要に対応するという点は競合するものの,居住面積の多少の広さを取るか,よい一層の利便性を取るかという形での需要の差に対応した差別化もなされていくものと考えられる.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692150784
  • NII論文ID
    130007014485
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.158.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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