北海道東部の湿原・湖沼堆積物中の津波痕跡と古環境

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  • Tsunami deposit and paleoenvironment from marsh and lake sediment in East part of Hokkaido

抄録

北海道東部にはあまり人工改変を受けていない湖沼・湿地が数多く分布しており、過去数千年の環境変遷史をその堆積物中に記録している。また、道東は太平洋側に千島海溝があり、地震・津波の常襲地域としても知られており、堆積物中には頻繁に津波堆積物の存在が認められる(添田ほか、2003など)。湿原・湖沼堆積物はその気候条件によって湿原には泥炭が、湖沼には冬季の湖面結氷と春~秋季の鉛直混合と藻類のブルーミングによって年縞と思われるラミナ(福澤、1995)が形成・堆積される(添田・七山、2005)。特徴ある堆積物がある一方で、近年この地域の研究は停滞状況にあるため、湿原・湖沼コアの分析によって古環境の変遷と津波・地震の発生頻度を求める研究が必要である。<br>  あらゆる水域の環境に適応し生きている珪藻は、その性質から水質の指標として用いられ、古環境学の分野においては水質変動の復元に利用されてきた。本来堆積学的に行われる津波堆積物の調査においても、珪藻分析は有用であることが分かってきた(添田ほか、2003など)。また、ラミナの形成について珪藻が深く関わっているため、珪藻分析によってラミナの一成因について考察が可能である。<br>  本発表では釧路市にある春採湖のコアの分析結果について報告する。春採湖のコアはコア長15.4 mで過去9500年間の堆積記録であり、22層の津波痕跡と年縞ラミナを含んでいる。以下に結論を述べる。<br> 1.珪藻遺骸群集の生活相変化から、春採湖は内湾・潟湖・内湾・潟湖・汽水湖と変遷してきたことが推測される。各環境の変化には地震・津波・地殻変動が関わっていると考えられる。<br> 2.海の珪藻が多産すると思われる津波堆積物について見ると、外洋生の珪藻よりも汽水生の珪藻が多く産出していた。海岸付近での調査(添田ほか、2003)では海生珪藻が明らかな多産を見せた一方で、本研究のような結果が出たことは、海からの距離によって津波堆積物中の珪藻種が変化するためである考えられる。この点に関しては今後水平分布を調べるなどして検討の必要がある。<br> 3.春採湖は、提案されているラミナの形成条件(福澤、1995)における湖盆の形状を満たしていないにも関わらず、明らかにラミナが発達していた。分析の結果、ラミナの層準では海生珪藻が多産しており、海水の遡上で化学的成層が成立したことが示唆される。これより、湖盆の形状より成層の成立がラミナの形成に深く関わっていると考えられる。今後は他の湖で形成されるラミナについても扱い、詳しく考察を行いたいと考える。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692173824
  • NII論文ID
    130007014516
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.133.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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