東京都練馬区における農業体験農園の発展に果たす人的ネットワークの地域的役割

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書誌事項

タイトル別名
  • Regional Roles of Human Networks in the Development of Agricultural Experience Farms, Nerima Ward, Tokyo Metropolis
  • Geographical studies on the commodification of Japanese rural spaces, Part 15
  • 商品化する日本の農村空間に関する調査報告(15)

抄録

I.はじめに<BR>  1999年施行の「食料・農業・農村基本法」の第36条には,「都市と<BR> 農村の交流等」が明示され,市民農園の整備の推進(第1項)や都市<BR> 及びその周辺における農業の振興(第2項)が明示された.都市農業<BR> が農業政策の対象として位置づけられたなか,都市農業の存続には<BR> 農地の市民的利用(農的空間の商品化)が一つの鍵となっているよ<BR> うに思われる.本報告では,東京都練馬区で増加を続けている農業<BR> 体験農園の特徴について,園主間や園主と農園利用者の人的ネット<BR> ワークが農園経営に果たす役割を中心に考察することを目的とする.<BR> <BR> II.練馬区における農業体験農園の特徴<BR> 練馬区は東京都のなかで,もっとも農地の市民的利用が進んでいる<BR> 自治体である.練馬区で開設されている農園は,_丸1_区民農園(23農園)<BR>_丸2_市民農園(6農園),_丸3_農業体験農園(14農園)である(数値は,<BR> 2008年現在).農業体験農園は,区が開設,管理する区民農園や市民<BR> 農園とは異なり,農家が農業経営の一環として行うものである.この<BR> 取り組みが具体化した背景には,改正生産緑地法の公布・施行がある.<BR> 練馬区内の篤農家の後継者数名は,改正生産緑地法の施行に伴い農地の<BR> 再編を余儀なくされるなか,4年ほどの歳月をかけて開設へ向けた準備<BR> を進め,区の行政担当者とともに法制度の裏づけを検討し,1996年に<BR> 全国で最初の農業体験農園の開設にこぎつけた.農業体験農園は,練馬<BR> 区では毎年1園ずつ開設が続いており,他の農園とは異なり増加してい<BR> る.農業体験農園の応募倍率は2.5倍(2008年度募集時)であり,区民<BR> 農園の1.2倍(同)や市民農園の1.9倍(同)を上回っている.<BR> 農業体験農園の園主である農家は,利用料(入園料や収穫物代金等)<BR> を体験農園に参加する入園者から徴収することで安定した収入を得るこ<BR> とができる.また,化学肥料や農薬代などの諸経費,肥培管理や収穫作<BR> 業の労働時間は,通常の営農活動と比較して大幅に縮減することができ<BR> る.さらに,体験農園は生産緑地で農家が運営主体として実施する取り<BR> 組みであるため,固定資産税が農地課税であることはもちろんのこと,<BR> 相続税猶予制度の適用を受けることができる.利用者との交流は農業経<BR> 営の継続に大きな糧となっている.2002年には東京都農業体験農園園主<BR> 会が組織化され,農園経営の方向性や課題について議論を重ねている.<BR> また,新たな農園開設へ向けた情報交換も続いている.<BR> 利用者は各種の市民農園と異なり,農家の指導を受けて農作業に取り<BR> 組むことができるため,農産物に対する知識が増え栽培技術の向上が実<BR> 現しやすい.同時に,質の高い収穫物を得ることができることも大きな<BR> 利点である.また,自分で作った「安全・安心」で旬の農産物を食べる<BR> ことができること,自然に触れられる喜びがある.農園では農家による<BR> 説明会や講習会が度重ねて開かれているので,農業の知識や技術ととも<BR> に農家との交流を通して地域の歴史や文化に触れる機会がある.また,<BR> 農家とともに他の入園者との交流も深まることが期待でき,地域の新し<BR> いコミュニティの形成にもつながっている.利用者は多様な本職をもっ<BR> ており,仕事で培われた能力がときに農業体験農園の園主と利用者間の<BR> 交流に役割を果たしている.各農園で催される収穫祭などのイベントに<BR> おいて,それらが発揮されることも多い.このことが農業体験農園の魅<BR> 力を高めることにつながっているとともに,利用者の継続的な農園利用<BR> にも一役買っている. <BR> 以上のように,農地の市民的利用(農的空間の商品化)のなかで,園<BR> 主間および園主と利用者間に構築されている人的ネットワークが,農業<BR> 体験農園の魅力を増大させ,結果的に農園経営をより円滑にすることに<BR> つながっていると評価できる.<BR> <BR> III.農業体験農園による都市農業振興の課題<BR> 増加する農業体験農園ではあるが,農園が地域的に偏在していること<BR> から,将来的には経営の成立しにくい農園が生まれる可能性も否定でき<BR> ない.区内の農業体験農園の開設をどこまで続けるかが問われるととも<BR> に,区内に留まらない情宣活動が必要になっている.また,経営上の利<BR> 点があるとはいえ,農業体験農園の実践には新しい運営・管理上の事務<BR> 仕事や利用者との良好な人間関係の構築などが求められる.農業経営の<BR> 一環として農業体験農園を適切に管理,運営できる人材を確保,育成し<BR> ていくこともまた問われている.<BR>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692193152
  • NII論文ID
    130007014541
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.143.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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