インド・アッサム州、ブラマプトラ川氾濫原におけるモンスーン降雨と稲作との関係

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  • Monsoon rainfall and rice cultivation in the Brahmaputra floodplain in Assam, India

抄録

1.はじめに<BR>  インド北東地方に位置するアッサム州は多雨地域として知られている。ベンガル湾から吹き込む南西モンスーン風がヒマラヤ山脈の地形効果によりこの地域に豊富な降雨をもたらしている。アッサム州の南のメガラヤ州には年間降水量の世界記録をもつチェラプンジもある。アッサム州の中でも特にバングラデシュと接する州の南部と西部、そしてブラマプトラ渓谷の最奥にあたる州の東部では年間降水量が3000mmに達する。<BR>  モンスーンによる降雨、そしてブラマプトラ川の氾濫水という湿潤環境の中で、アッサム州では人工的な灌漑を用いない天水田稲作が営まれてきた。ここでは年々変動が大きいモンスーンの降雨を最大限活用する形で稲作作付体系が組み立てられてきた。<BR>  アッサム州の稲作にとってはこれまで雨季の洪水が最大の問題とされ、いかに水を制御するかが長年の課題とされてきた。しかし近年になり旱魃が稲作にとっての新たな問題となりつつある。特に2006年は稲が生育する雨季にじゅうぶんな降雨が得られず収量が大幅に落ち込む事態になった。今後は洪水のみならず旱魃への対策も求められるが、降雨変動がどのようなプロセスを経て稲作の収量に影響を及ぼしているかについて、多雨地域であるアッサム州ではほとんど研究が進んでこなかった。<BR>  そこで本研究では2009年雨季の稲作の事例を調べることで、アッサム州の稲作とモンスーン降雨の関係について明らかにし、稲作の収量に影響を及ぼしている要因について考察することを目的とする。<BR><BR> 2.調査地概要とデータ<BR>  本研究は2009年5月29日から11月14日まで調査村に滞在して実施した調査の結果に基づいている。調査村はアッサム州東部のロキンプル県にあり、ブラマプトラ川の北岸、ヒマラヤ山脈の南麓に位置する。調査地周辺の地形はヒマラヤ山脈から南もしくは南東方向に流れてくる多数の河川によって形成され、自然堤防上の高みに居住地が作られ、後輩湿地の低みに水田が営まれている。5月下旬から10月上旬までがモンスーンによる雨季となっており、年間降水量3300mmのうち約80%が雨季の期間に集中している(1971-2000年平均)。<BR>  政府役所から入手した降雨データと河川水位データに加えて、田の湛水深・湛水範囲を定期的に観測した。世帯調査により、移植日・栽培品種・収量などの稲作に関するデータが得られた。<BR><BR> 3.結果と考察<BR>  本研究の結果から、モンスーン降雨の開始時期は稲の移植開始日にとって重要であるが、それ以上に降雨のピーク時期、対流活動のアクティブ・ブレイク期の季節内変動が田の水位を決め、稲作作業時期に影響を及ぼしていることが明らかになった。田の湛水時期・範囲は降雨以外にも地形や土壌が間接的に効いており、これらの自然要因が合わさった結果、多雨地域にも関わらず湛水期間が短くなるため、稲作の収量が不安定になっていることが示唆された。<BR>  調査を実施した2009年の雨季は過去5年間で最も降雨が少なかったが、すべての世帯で前年より収量が減少するということはなく、少雨の影響は主に村内の高位田で見られた。高位田を所有する世帯ではHYV(高収量品種)の作付面積が比較的大きいが、移植開始が遅れたこととモンスーンのブレイク期に移植作業が中断されたことにより収量に影響が出たものと思われる。<BR>  現在のところアッサム州内の水田で灌漑が普及している割合は5 %以下であり、ほとんどの地域で稲作は天水に依存している。管井戸・揚水ポンプは依然として導入が進まず、今後もこの状況は続くであろう。旱魃の被害を抑えるためには、降雨の季節内変動メカニズムの研究に加えて、田の水文環境を流域内の水の動向と合わせて把握する必要もあると思われる。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692239232
  • NII論文ID
    130007014629
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.166.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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