同郷者団体と母村の空間的関係

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タイトル別名
  • Relatinonship between migrant associations and home villages
  • Case study of Naze, Amami Oshima island
  • 奄美大島,名瀬の郷友会の事例

抄録

本発表の対象は,奄美群島の諸集落(シマ)から中心都市の名瀬に移住した人びとらが組織する郷友会である。本発表は,名瀬在住者が組織する郷友会の組織的特徴と空間的な性格を明らかにすることを目的とし,とくに近年における郷友会とシマとの関係の緊密化に着目し,それが郷友会の空間的性格とどのように関連するかを明らかにする<BR> 第二次世界大戦後,群島全域から名瀬への急激な人口流入が生じ,名瀬は各シマの出身者が集中する混住化社会の様相を呈した。郷友会は相互に孤立的だったシマの性格を反映し,シマ出身者内部の強い結束を維持した。結成当初の郷友会は,相互扶助や情報交換を目的とし,出郷者の生活支援に実質的な役割を担った。就職・住居の紹介,頼母子講による生活資金の融通や,郷友会の運営資金を寄付に依存する点に,相互扶助組織としての郷友会の性格が表れている。<BR> 名瀬在住者の生活水準が向上した現在,出郷者の生活支援組織としての郷友会の役割は縮小した。それに代わって,出郷者とその二世・三世が自らのアイデンティティを確認する場としての郷友会の役割が重要視されるようになった。重要な郷友会行事である八月踊りや運動会は,シマの暮らしのシミュレーションである。9月の夜には名瀬のあちこちで八月踊りの輪舞が,一種の仮想空間,いわば「シマの幻影」としていっとき立ち現れる。<BR> しかし,だからといってシマの暮らしを知らない二世・三世にとっての郷友会組織は,単なるノスタルジーの対象ではない。郷友会組織に張り巡らされた人的ネットワークは,彼ら自身の仕事や日常生活において還元可能である。確認された郷友会数と郷友会の規模を考慮すると,相当数の名瀬市民が郷友会に加入していると推定され,郷友会は人的ネットワークを形成するための資源と位置づけることができる。郷友会活動の実務の中核は,名瀬および奄美の行政・経済の担い手である公務員・事業家が占めている。このことが,人的ネットワークの結節点としての郷友会の存在価値を高めている。<BR> 次に,郷友会およびシマの行事に合同化の傾向が見られる。シマでは過疎化と高齢化が進行する一方で,郷友会では熟達のウタ者が減少し,単独での行事開催が双方において困難になりつつある。行事の合同化は,直接的には両者における人的資源の枯渇が要因である。しかし,一方でモータリゼーションと道路整備の進展によってシマへの近接性が向上したことが,シマ住民と名瀬在住者の接触の機会を増加させ,合同行事の開催を実現させた。行事の合同化が名瀬に近いシマとの間で見られることが,これを裏づける。<BR> 交通条件の改善と高齢化は,一方では郷友会活動を沈滞させる要素である。事実,高齢化によって運動会を取りやめた郷友会もある。シマへの近接性が改善された結果,郷友会の存在意義が稀薄になったとの指摘もある。しかし郷友会とシマの関係は以前に比べて緊密化し,両者間には相互補完的な関係が形成された。<BR> 郷友会結成当初,名瀬―シマ間の接触はきわめて限定的であったと考えられる。名瀬在住者の郷友会とシマの集落組織はそれぞれ個別の空間的領域をもち,両者は分離していた。本土復帰以降,名瀬の郷友会組織が充実する一方,シマでは過疎化と高齢化にともなう集落組織の縮小が見られた。近接性が改善された結果,両者の接触が頻繁にくり返され,組織的な行事の開催にまで発展した。シマ・郷友会双方の人的資源の不足を相互に補完する関係が形成され,元来組織的な関係がなかった両者間に密接な結合が生まれた。名瀬とシマのこのような関係は距離によって規定され,名瀬に近接したシマほど郷友会との関係が密接である。シマとの相互支援が可能な近接性を有している点に,名瀬在住者の郷友会の空間的特徴がある。<BR> シマとの結合を強化した郷友会の存在は,シマの空間的範囲の拡大である。すなわちシマの広がりが名瀬にまで及んだことを意味する。元来孤立的であったシマは,郷友会組織と結びつくことで名瀬を自らの領域内に収めた。郷友会内部の行動規範はシマと基本的には同質であり,郷友会内部の人的ネットワークはシマのそれを基盤としている。したがって,郷友会ネットワークに依存することで,シマの住民は「異境」である名瀬においても,シマと同様の行動をとることが可能となる。ここに広域的なシマ空間が形成され,名瀬は多くのシマ空間が重層する混住社会となった。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692240768
  • NII論文ID
    130007014633
  • DOI
    10.14866/ajg.2009f.0.189.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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