植生指標NDVIの都市域における特性と適用性
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- 平野 勇二郎
- 埼玉大学
書誌事項
- タイトル別名
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- Characteristics and applications of NDVI in urban area
説明
1.はじめに 都市域では地表面被覆の大部分を人工構造物が占めるため,植生は重要な構成要素である。本稿では,衛星リモートセンシングの一般的な植生指標であるNDVIの都市域における性質とその利用可能性・有用性について,著者らの検討事例を紹介する。2.都市域におけるNDVIの季節変化パターン 都市域は多種の地表面被覆が混在しているので,NDVIは植生に限らず様々な要因の影響を受けている。このため都市域ではNDVIを用いるにあたり,その性質をできる限り把握しておく必要がある。図1に衛星データ(JERS-1)による土地利用別のNDVIの季節変化を示す。これらのデータを可視_-_近赤外座標上にプロットし,この座標上のNDVIの等値線(以下,等NDVI線と呼ぶ)との位置関係から,NDVIの季節変化パターンについて考察を行った(平野, 2001)。等NDVI線は原点を中心とした放射状の直線となる。様々な土地被覆カテゴリーの分光反射特性とNDVIの関係について解釈するためには,この等NDVI線の上にデータがどう分布しているかという観点から考察すると分かりやすい。図2に示した通り,例えば「樹林地」や「荒地」(図省略)などはいずれも等NDVI線を横切る方向にほぼ直線的に変動する。植生が少ない「市街地」や「水面」はほとんど変化しない。「田」は春から夏にかけて水面が混在するため環状の分布となるなどの特徴がある。3.都市域におけるNDVIと緑被率の関係 都市域では植生の有無が明確であるため,緑被率は主要なNDVIの変動要因である。NDVIと緑被率の関係を,緑被・非緑被カテゴリーの線形混合モデルに基づき分析した(平野ほか, 2002)。線形混合モデルとは,各画素の反射率は画素内の被覆カテゴリーの反射率の面積加重平均により表現されるというモデルである。画素内の緑被・非緑被部分をそれぞれ単一の被覆カテゴリーと仮定すれば(例えば「植生」と「土壌」など),NDVIと緑被率の関係式は次のような簡単な式で表現できる。 (1) αは緑被率,a,b,c,dは緑被・非緑被の各カテゴリーの反射率から得られる定数である。この式に基づき,各カテゴリーの反射率をJERS-1のデータから抽出してNDVIと緑被率の関係を示した(図3)。「市街地」,「住宅」などは,平均化された都市域の非緑被のカテゴリーである。図3において画素内の非緑被部分が「市街地」の場合にとくに直線的であることから,NDVIは都市域において緑被率との線形性が強いことが理解できる。また「水面」が混在した場合にはNDVIは高くなりやすく,より非線形になる。4.応用事例:都市気候シミュレーションへの適用 都市域の植生によるヒートアイランド現象の緩和作用は,都市気候の実態把握・解明を行う上で重要な要素である。しかし従来の都市気候シミュレーションの多くは土地利用データを用いて気象モデルの地表面の設定を行っているため,土地利用データでは把握できない宅地内の植木や道路用地の街路樹などの効果を表現できない。そこでNDVIから得た緑被率データを局地気象モデルへ組み込み,現状の植生分布を反映した都市気候シミュレーションを行った(平野ほか, 2004; Hirano et al., 2004)。この結果,緑被率データ適用により現状再現性が向上していることが確認された。この現状の緑被率データによるシミュレーション結果と,植生が存在しない場合を想定したシミュレーション結果とを比較し,植生により夏季・日中には約1.5 ℃のヒートアイランド緩和効果が生じているという結果を得た。5.今後の課題と展望 都市域における植生リモートセンシングの活用事例はむしろ都市計画・都市防災などの工学分野で多いようであるが,その多くがケーススタディーである。人為的な影響による環境変化が著しい都市域においては,環境変化を把握・分析する手段としてのリモートセンシングの有用性は言うまでもない。今後はさらに体系的・継続的な研究が必要であると考えている。文献平野勇二郎 2001 日本建築学会計画系論文集, No.548, pp.75-82.平野勇二郎・安岡善文・柴崎亮介 2002. 日本リモートセンシング学会誌, Vol.22, No.2, pp.163-174.平野勇二郎・安岡善文・一ノ瀬俊明 2004. 環境科学会誌, Vol.17, No.5, pp.343-358. Hirano, Y., Yasuoka, Y. and Ichinose, T. 2004. Theoretical and Applied Climatology, 2004, Vol.79, pp.175-184.*日本学術振興会特別研究員
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2005s (0), 102-102, 2005
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205692526720
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- NII論文ID
- 130007014977
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可