ヨーロッパ統合時代のフランス・ドイツ・スイス国境地域(2):

書誌事項

タイトル別名
  • French-German-Swiss border areas in the era of European integration
  • (2) Spatial dynamics and structure of the cross-border cooperation in Basel Region
  • バーゼル国境地域における越境地域連携の展開とその構造

説明

本研究は先の発表に続き,バーゼル国境地域を対象として,国境を越えた地域連携(以下,越境地域連携)がいかに進展して,どのような構造を示すのかを明らかにしようとするものである。■ ヨーロッパの地域統合と越境地域連携  ヨーロッパの越境地域連携は,国境地域というミクロスケールでの連携(cross-border cooperation)を中心に先行して,地域統合が進展するなかで国家あるいはよりローカルな主体間で国境地域の特定問題について解決をはかるもの(inter-territorial cooperation)や国家を越えたスケールでの地域連携(transnationational cooperation)が進展してきた。それは,EUの地域政策のなかでインターレグプログラム等によって,財政的裏付けを得て活発化し,深化してきたものである。本研究対象地域はEUの域内国境と域外国境という両者の性格を有し,ヨーロッパにおいても1960年代という早期から越境地域連携を進めてきた地域である。■ 越境地域連携の展開とその構造 本地域の越境地域連携は国(政府委員会),州(Oberrheinkonfrenz:ORK),地方自治体(Regio TriRhena)という各主体レベル毎に形成され,さらにバーゼルを中心とした大都市圏域(Trinationale Agglomeration Basel:TAB,Nachbarschaftskonferenz)やEUのインターレグプログラムのほか,主に越境する企業や個人に情報を提供するINFOBESTネットワーク等も設立されている。このように,バーゼル国境地域は越境地域連携の展開において,機能的・空間的に重層構造を示す点に特色がある。 このような重層性は本地域における越境地域連携の展開に基づいていた。それはまずRegio Basiliensis(1963年)とRegio du Haut-Rhin(1965年)の設立を端緒に,民間レベルで主導された。その後,1975年に仏・独・スイス3か国によるボン協定が結ばれて,上ライン全体について協議する政府委員会と州政府を主体とするORKが設立された。同様に,州政府レベルではより専門的なテーマを話し合うDreiländer Kongreßも1988年から始まった。そのなかで,1985年にドイツ側の地域連携組織であるFreiburger Regio Gesellschaftが設立された。こうして,1980年代には仏・独・スイスそれぞれの越境地域連携組織の上に,国・州レベルのそれが重層化することとなった。 1990年代に入り,インターレグプログラムの開始とともに,本地域はInterreg Oberrhein Mitte-Südの事業域となった。INFOBEST PALMRAINはこのインターレグを利用して1993年に設立され,翌1994年にRegio TriRhenaが地方自治体を主要メンバーとして設けられた。それは,現在,実質的な地域連携組織として機能している。また,バーゼル大都市圏では TABが圏内の空間政策の調整等をはかり,40の地方自治体によるNachbarschaftskonferenzがEuro Airport,共通のアイデンティティ,ヘルスケアを主に話し合う非公式な情報交換プラットフォームとして組織されている。また,州・県レベルではOberrheinrat(ORR)が1998年に設けられた。 本地域における越境地域連携は民間主導により国境地域というミクロスケールでまず始まり,よりマクロなものが加わるとともに,1990年代以降,各スケール毎に深化してきたが,そこにはEUのインターレグプログラムが財政的基盤をなすとともに,越境地域連携の担い手の関わりが大きかった。■ 越境地域連携の担い手と基盤 本地域の越境地域連携は,バーゼル市を中心とした原経済圏で地域の経済環境を基盤に歴史的背景のなかで進められてきた。それは先の発表のような越境通勤等の人口流動と産業連関に示される地域性に基づいたものであり,そのなかで企業も越境地域連携の主体として一定の役割を果たしていた。例えば,Endress+Hauserグループは経営戦略としてオープンマインドな人材育成のために,1980年代から3か国の各工場で各国の従業員を一定期間働かせて他国の工場間とのコミュニケーションをはかるように努めてきた。また,同社は本地域の職業教育システムの構築においても,越境地域連携組織のメンバー・役職を務める創業者の構想を「cross-border initiatives」として,財政的・人材的に支援して具現化してきた。本地域の越境地域連携は他の国境地域のように州・県・地方自治体を主な主体とするのではなく,企業や個人によっても担われている点に特色がある。このことは,Regio Basiliensisの会員構成(個人52.3%,団体47.7%)にも現れている。この点も地域連携からみた本地域の性格を示すものといえよう。なお,インターレグや地域連携の組織構造等については発表時に触れたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692586368
  • NII論文ID
    130007015100
  • DOI
    10.14866/ajg.2003f.0.41.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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