日本の地理学者に対する言説概念についての意識調査

書誌事項

タイトル別名
  • Questionnaires concerning the concept of discourse to Japanese Geographers

説明

<BR>I はじめに<BR>  報告者たちは,2005年の日本地理学会春季学術大会で「日本の地理学における言説分析の現状と課題」という報告を行い,その内容を成瀬・杉山・香川(2007)として発表した。このなかで日本の地理学者の論文を多数検討するのと並行して,学会発表前の2005年2月下旬に検討対象の論文著者に対し,言説概念についての意識に関する質問票を配布した。本報告では,その結果を紹介するとともに,こうした実践の意義について考察したい。質問票は22名の著者(共著論文に対しては第一著者)に対して電子メールで配布し,14名から回答をいただいた。質問は以下のような内容である。<BR> 1. あなたの上記論文について<BR> ・あなたは論文中で「言説」の語を用いていますか?<BR> ・あなた自身はこの論文の(一部の)方法を言説分析だと思っていますか?<BR> ・その方法は既存のどんな研究から学んでいますか?<BR> 2. 言説という概念について<BR> ・あなたの理解の範囲で,この概念を説明してください。<BR> ・この概念について思い浮かぶ思想家や研究者を挙げてください。<BR> ・それらの著者の作品を読んだことがありますか?<BR> ・地理学者の研究で言説概念を援用したものを知っていれば挙げてください。<BR>  成瀬・杉山・香川(2007)はいわば,日本の地理学者による言語資料研究のテクスト分析であった。その対象となった著者たちは報告者たちと近い立場にある(報告者たちもここに含まれもする)。日本の地理学における言語資料研究の現状について理解するためには,テクスト分析に限定される必要はなく,著者たちとのコミュニケーションをはかることも有意義と考えられる。今回の調査表の送付はそうしたコミュニケーションの一部であり,またこうした学術大会での口頭発表,およびそれに対する質疑応答もその一環である。こうした実践のなかで言説分析の方法論的議論を進展させたい,というのがこの質問票配布の目的である。<BR> II 調査結果<BR>  1.の質問はある意味ではテクスト分析から引き出せるものである。しかし,論文の発表年によっては,執筆当時は言説概念を用いていなくても,現在は言説分析だと思うかもしれない。また,この質問を契機に学術論文では書きえない言葉を引き出すことができるかもしれない。しかし,結果的には前者のような意見はいくつか得られたものの,後者のような回答は得られなかった。むしろ,論文を読めば分かるという理由で回答拒否も存在した。しかし,一方では形式的なアンケートとは違い,日常的なメール交換の延長線上で貴重な意見を引き出せたことも事実である。<BR>  2.の質問からはいくつか重要な回答を得ることができた。自らの論文を言説分析だと認識していなくても,知識としての言説概念を理解しているということ。また,どのような媒体(論文,著書,研究会,講義)を介して言説概念を理解したのか,また実際の研究上,方法論として参照した文献の種類の多様さ(地理学内外,国内外),など。<BR> III おわりに<BR>  言説概念は,特定の意味や考え方が社会のなかで普及していくことも意味する。言説概念は地理学における言語論的転回において重要な位置を占めている。その概念の日本の地理学者における普及の現状について,成瀬・杉山・香川(2007)と本報告の作業により,ある程度は明らかにできた。今後ともこうした実践は続けていきたい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692641024
  • NII論文ID
    130007015163
  • DOI
    10.14866/ajg.2008s.0.58.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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