侵食地形の発達に対する隆起の影響についての実験

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タイトル別名
  • Effects of slow uplift on the development of experimental erosion landform
  • 動的平衡状態は出現するか?

抄録

山地地形に代表される侵食地形は、その発達過程を知る手がかりが乏しく、過去には地形学の主要なテーマだったことがあるにもかかわらず、現在でも理解が進んでいるとは言いがたい。最近ではコンピューターシミュレーションによる侵食地形発達の研究も盛んになってきたが、基礎となるデータが乏しいことには変わりない。発表者がこれまで行ってきた隆起を伴う降雨侵食実験は、実際の地形とはスケールが大きく異なるが、地球上で実際に起こり得る現象による時間的変化を示しており、手がかりの乏しい侵食地形の発達を明らかにする上で有用な知見をもたらす可能性がある。今回はこのような降雨侵食実験の中から、長時間にわたる人工降雨による侵食地形の発達に比較的ゆっくりとした隆起と与えた実験の結果を報告し、特に隆起と侵食の間に動的平衡状態が出現するかどうかについて考察を加える。<BR> 地下に埋設した隆起装置の上に、上面90x90cm(測定範囲は76x76cm)、地上高約12cm(地下約10cm)の四角い砂山を細砂とカオリナイトの混合物で形成し、これに農業用の潅水チューブから細かい人工雨を降らせて微小な侵食地形を作り出した。十分侵食が進み起伏の小さな形態が発達した255時間後から、隆起装置によって砂山全体をゆっくり隆起させ、1,759時間まで隆起をともなう微小侵食地形の発達過程を観測・計測した。ここでは、隆起速度の異なる2回の実験と比較のために行った隆起を伴わない実験を報告する。<BR> 隆起がない場合、谷の急速な下刻と谷系の発達とともに、平均高度がほぼ指数関数的な低下を示す。砂山周りの扇状地の発達が終わり、開析されるようになるあたりから、主要谷の谷底高度を示す最低点高度の低下とともに平均高度も若干低下を速める。実験後半には、平均高度の低下は明らかに減速し、近似指数曲線に従わない直線的な低下を示すようになる。これは流域が一つの大きな流域に統一されて後地形が安定したことを反映していると考えられる。隆起は砂山周りの扇状地の発達を促す働きがあるようで、3時間に約0.1mmの割合で隆起を起こした場合、扇状地の開析開始が大幅に遅れた。隆起開始後、平均高度はゆっくりした低下を示すが、隆起量を差し引くと、隆起開始後しばらくは隆起のない場合と同様の指数関数的な低下となる。その後は近似曲線を離れ、隆起分+αの侵食があったことを示す直線的な低下を見せる。流域の統一が起こり、扇状地の開析が始まると、平均高度の低下が少し加速される。最低点高度の低下が起こり、最高点高度が明確な低下を見せないため、全体としての起伏は増加する。隆起のない場合より扇状地が高く発達するため、侵食が少し加速されたのではないだろうか。尾根部がやせて細かな谷がなくなり、より平滑な様相を呈するようになる。全体としての起伏の増加に伴う平均高度の低下はこのような地形変化を表していると思われる。砂山の隆起は、結局は侵食過程にはあまり大きな影響を与えず、侵食量が隆起量を上回った分だけ平均高度の低下が起こったのではないだろうか。3時間に約0.2mmの隆起の場合は、隆起開始後は平均高度の変化が少なく、ほぼ一定の高度で推移した。平均高度から隆起量を差し引くと、隆起開始直後の指数関数的な低下に従う部分は比較的短く、隆起に対応した直線的な低下が長く続く。扇状地の発達はさらに持続し、流域の統一とそれに伴う扇状地の開析も最後まで明確にならなかった。最高点高度は隆起とともに緩やかに上昇し、最低点高度も若干の上昇を見せ、全体としての起伏は若干ではあるが増加する。この実験では、平均高度がほぼ一定の高度を保ったことから、隆起と侵食がつりあった動的平衡状態が出現したと考えることも可能である。しかし、隆起速度の小さな実験の結果と合わせると、隆起が傾斜を増大させて侵食を加速し、その結果として動的平衡状態が出現したと考えるより、この実験設定における侵食速度と今回の隆起速度がたまたま一致したことによって偽平衡状態のようなものが出現したと考えたほうが理解しやすい。さらに、この偽平衡状態においても、全体としての起伏の増大、尾根部の縮小と地形の平滑化、などが見られ、たとえ平均高度の変化がなくても地形の変化があり得ることを示している。隆起と侵食の間に地形的平衡状態が出現するとは考えにくいようである。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692847616
  • NII論文ID
    130007015385
  • DOI
    10.14866/ajg.2006f.0.6.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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