飛騨地域における肉牛の産地形成とブランド化

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • The Formation Processes of Producing Area and Brand Marketing in Higa, Gifu

この論文をさがす

抄録

1.はじめに 食のグローバル化が進展し、輸入食材が溢れている。一方、BSE(牛海綿状脳症)や産地偽装問題が発生し、食の安全性に対する消費者の信頼は大きく揺らぐこととなった。多くの消費者が安全な食品を求めるようになり、ブランド農産物が注目されるようになった。その中で、最も関心の高い品目の一つが牛肉である。かつて牛肉は高級食材であったが、輸入牛肉の増加によって、牛丼、ハンバーガーなど身近で消費できるようになった。しかし、BSEの発生は牛肉の消費を激減させ、肉牛生産者や外食産業に大きな影響を与えた。今日、低価格の牛肉の拡大が進む一方で、国産銘柄牛の需要が高まっている。松坂牛や前沢牛などが有名なブランド牛であるが、近年とくに知名度をあげたのが飛騨牛である。本研究では、飛騨牛の産地がどのように形成され、どのようにブランド化に取り組んだのか、またブランドによる地域振興の課題を考察する。2.飛騨牛の産地形成と生産の実態 飛騨地方では古くから肉用牛の生産が行われており、第2次大戦後に和牛改良に力を入れるようになった。1981年に但馬牛の血を引く「安福号」を1,000万円で購入したことが、飛騨牛の産地形成と銘柄を確立する上で最も重要な転機となった。 肉用牛の流通で最も重要視されるのは血統である。岐阜県では、岐阜県畜産研究所で精液を一括管理している。繁殖農家では畜産研究所から精液ストローを890〜1,920円の低価格で配布を受け、人工受精を行っている。三ツ谷地区(高山市清見町)では子牛の安定供給を図るために、16戸の肥育農家が参加して、飛騨牛繁殖センター農事組合法人を設立した。繁殖センターの子牛供給では数量が不足するため、肥育農家は北海道、鹿児島県など岐阜県外から子牛を導入している。繁殖農家と肥育農家が分業することによって、牛の体調の変化など、細心の注意を払った飼育管理を行うことにより、良質の肉牛生産を行うことが可能となっている。3.飛騨牛のブランド化と消費拡大 飛騨牛の品質保持・向上のために、1988年に岐阜県経済連(現JA全農岐阜県本部)を中心に飛騨牛銘柄推進協議会が発足した。年2回の共進会が開催され、農家の生産意欲を向上させ、肉質向上を図る相乗効果が図られている。また、飛騨牛フェアなどを開催し、飛騨牛に対する一般消費者と地元住民の理解と親睦を図っている。5等級の飛騨牛を年間5頭以上の消費に貢献している販売店、料理店を飛騨牛の指定販売店・指定料理店に認定し、安定的な販売促進を図っている。 2002年12月から、飛騨牛は岐阜県内で14ヶ月以上肥育された日本食肉格付協会の規定するA5〜A3、B5〜B3の黒毛和牛と定められている。供給量確保の規格拡大に伴い、品質の低下が生じたとの消費者の誤解を避けるために、5等級(最上級品)を金、4等級(上級品)を銀、3等級(標準品)を白と色分けしたパックシールで明記することにより、消費者は肉質と価格を確認して、購入できるようになった。 飛騨牛の約70%は岐阜県と愛知県内で消費されている。販売地域をしぼり込むことにより、地元での認知度を高め、消費者の信頼獲得に努めている。特に、高山市は国際的な観光都市であり、高山市を訪れた観光客が飛騨牛を賞味することによって、大きな宣伝効果となり、観光客誘致と地域振興に役立っている。4.産地振興の課題 飛騨牛が著名な銘柄牛に成長したのは、種雄牛・精液の管理、飼料の生産拡大や品質改善など岐阜県畜産研究所、農協、農家が一丸となって取り組んできた成果と言える。今日、トレーサビリティシステムの導入によって、生産履歴情報が消費者に開示されようになった。地域ブランドとしての飛騨牛の評価が高まっていることを考えると、更なる飛騨牛のブランドを確立するために、岐阜県内での繁殖力を強化し、他県から子牛を導入することなしに100%地元で確保された「純飛騨牛」の生産を目指すことが、消費者の信頼を確実なものにするものと思われる。 アメリカ産牛肉の輸入が再開され、特定危険部位(脊髄)が混入していたことにより、再び輸入が停止された。輸入が再開されても、当面の輸入量は限定的と思われるが、中長期的には低価格の輸入牛肉の需要が高まり、牛肉の価格を押し下げるものと予測される。現在、BSE問題による流通量の減少に伴って、牛肉の価格は比較的堅調に推移しているが、牛肉価格の下落を予想した産地の対策が求められよう。繁殖農家の技術力、労働投下量に比較して肥育農家は朝夕1回1時間程度の給餌、昼の見回り、10日に1回の床替え程度で、労働投下量は少なくてよい。労働力1人当たりで250頭ぐらいの牛を飼育できると言われている。したがって、多くの肥育農家では、飼養規模を拡大することも可能となり、飼料費などのコスト削減に留意しながら、輸入牛肉への対応策を考えていくことも重要であろう。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205692886784
  • NII論文ID
    10020532087
  • NII書誌ID
    AA1115859X
  • DOI
    10.14866/ajg.2006f.0.26.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ