わが国における輸出向けミカン生産の現状と拡大への課題

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  • Problems for Expansion of Satsuma Orange Export in Japan

抄録

1.はじめに 近年、わが国で農産物の輸出拡大をめざす議論が高まっている。これは、近年のアジア諸国の経済発展に伴う購買力の上昇やFTA交渉の進展による関税率の低下などに期待したものであり、現に2000年以降のわが国の農林水産物輸出額は対アジア諸国を中心に20%以上の伸びを示している。 そこで本発表では、このような議論が高まるなかで本当に輸出の拡大は有望なのかを、果実の中で最大の輸出量をもち歴史も古いミカンを事例にその現状と拡大への課題について検討する。2.わが国におけるミカン輸出の近年の動向 わが国のミカン輸出は1980年代にピークに達して以来減少続きで、1990年代後半以降も回復の兆しはみられていない。輸出先についても、カナダ・アメリカの北米2ケ国で輸出量全体の約95%を占めている状況は従来と変わっておらず、東・東南アジア諸国への輸出もそれほど伸びてはいない。また、価格についても1990年の162円/kgから2003年の98円/kgへと大きく低下している。したがって、ミカン輸出の減少はカナダ・アメリカでの販売動向の結果であるといえるが、なぜこのように北米向け輸出が1990年代に減少してしまったのか。 その要因の1つは円高の進行による採算の悪化である。1980年代前半には1$=200円台であった為替レートは、1990年代前半には100円台前半へと大きく円高が進んでしまった。もう1つは、相手国の事情で、カナダについては、円高の進行とも関連して価格競争力を強めた中国産のミカンがカナダでのシェアを伸ばしたことが大きい。一方、アメリカについては、植物検疫上の問題が大きい。アメリカは、ミカンの潰瘍病やヤノネカイガラムシ等の病害虫の侵入に対して強い警戒を示しており、輸出希望国は生産園地の指定とアメリカ人検査官の立ち入り調査など数々の検査手続きを受ける必要があるのである。 このような状況下で、わが国の輸出ミカン産地ではどのような生産流通が行われているのか。以下では、静岡県の現状について検討する。3.静岡県における輸出向けミカンの生産・流通の現状1)旧清水市におけるミカン輸出への取組み 旧清水市は、静岡県で最大の輸出ミカン産地であるが、近年はその生産を大きく減じている。その要因としては、清水市でのミカン栽培自体が衰退傾向を強めていることと、ミカンの栽培品種構成が晩生(12月収穫)の青島種に大きくシフトし、通常11月に行われる輸出時に間に合うミカンそのものが減少してきたことが挙げられる。 現在、JA清水市では青島種以外のミカンのすべてを輸出に振り向ける方針にしているが、輸出向けミカンの採算は目標を大きく下回っている。しかし、そのような中でも労働力基盤が弱く青島種への系統更新を進めることに消極的な農家層にとっては、早生ミカンの輸出は国内相場の低迷する11月に出荷できることや、加工向けに出荷するよりもはるかに利益をもたらすことから、一定のメリットがあると認識されている。2)三ケ日町におけるミカン輸出への取組み 三ヶ日町は静岡県最大のミカン産地で、かつ近年輸出向けミカンの生産が増加している。これは、青島種の大玉果(3Lサイズ以上)の輸出に取組み始めたからである。青島種は静岡産ミカンの主力品種であり、国内販売でも有利に取引きされるため本来なら輸出向けに販売されるものではないが、大玉果は国内販売でも低価格なため、等級によっては輸出向けに回した方が利益が出るという判断がなされるようになってきたからである。 しかし、三ヶ日町で輸出に向けられているミカンは決してグレードの高いものではない。生産者は、国内向け販売から得られる収入との比較の中で輸出向けミカンを選別しているのであり、実態としては国内向け果実の最低ランクと加工向け果実との中間レベルの果実を樹上で選別して収穫しており、極めて特殊である。また、選果箱詰めに関しても農協が行うのではなく旧清水市内の集出荷業者に委託しており、農協の関与は国内向け販売とは比べものにならないくらい小さい。3)藤枝市におけるミカン輸出への取組み 藤枝市は現在ミカンの対米輸出を行っているわが国唯一の産地である。輸出指定園となっているのは、海岸から約10kmも離れた山間部の29haで、気候的に冷涼なため糖度重視の現在の国内市場へ販売するためのミカン作りには適していない。また、園地は急傾斜にあり農作業面でも条件不利地域である。輸出に向けられているのは、輸出指定園内で生産されたミカンの約50%で、品種的には青島種以外の品種の全量と青島種の3Lサイズ以上である。しかし、対米輸出は対カナダ輸出よりも高値で取引されていることから、三ヶ日町のように3Lサイズの中からさらに低級品を選別するといったことは行っていない。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693243136
  • NII論文ID
    130007016109
  • DOI
    10.14866/ajg.2005s.0.74.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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