濃尾平野沖積層における堆積心の移動と堆積体発達過程

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  • Development of the Kiso river delta and shift of depocenter during last 10,000 years

抄録

研究背景・目的<br> シーケンス層序学では河川から供給される土砂の量が一定のとき,相対的海水準変化に伴って海進-海退がおこると解説される.海進-海退に伴って層厚(堆積速度)が最大になる地点である堆積心(depocenter)が現在の海域から沖積低地の間を移動する. 堆積心の形成と移動の具体的な検討は相対的海水準変動に伴う低地-沿岸域の堆積プロセスを明らかにする上で重要である.本発表では,典型的な河川卓越型の沖積低地が発達する濃尾平野を対象として過去10,000年間における堆積速度の時空間分布を復元し,堆積心の移動と堆積体の発達プロセスを検討する.<br> 濃尾平野における堆積速度の時空間分布の復元手法<br> 濃尾平野には閉塞性高い内湾に木曽川などの諸河川が流入ことで形成された河川卓越型の沖積低地が発達している.近年では陸域(山口ほか,2003;大上ほか,投稿中)および海域(Masuda and Iwabuchi,2003)において掘削されたボーリングコアに多数の年代値を入れた研究が行われてきた.これらの研究で報告された放射性炭素年代値にもとづいて,以下の方法によって濃尾平野における過去10,000年間の堆積速度の時空間分布を復元した. 上記の研究によって詳細な堆積曲線が得られている6地点(陸域5,海域1)を対象とした.木曽川デルタの主軸にそった測線にこれらの地点を投影した(図1).測線の総延長は39 kmである.放射性炭素年代値を線分でつないで描いた堆積曲線を200年毎に区切り,各区間の平均堆積速度を求めた.堆積速度を求めるにあたり,圧密の効果は山口ほか(2003)などと同様に影響が小さいと判断して無視した. これを用いて,1 km×200 yrの時空間メッシュに補間処理によって堆積速度の時空間分布を求め,横軸に測線上の距離,縦軸に暦年を取って時空間ダイアグラムを作成した(図2).補間処理には最小曲率法を用いた.堆積相境界(大上ほか,投稿中,の定義に従う)の年代を堆積曲線から内挿して求め,図2に加筆した.堆積相(B~E)は概ね沖積層の従来の岩相区分と対応する(B:下部砂泥層,C:中部泥層,D:上部砂層,E:最上部層).<br> 過去10,000年間における堆積速度の時空間分布<br> 堆積速度が5 mm/yr以上になるのは,堆積相Dおよび堆積相Bの上部の分布域がほとんどである.堆積速度が2 mm/yr未満になるのは堆積相CおよびEである.堆積速度の分布をみると,海陸の境界近くで堆積速度が大きい堆積心が形成され,これは堆積相B/CまたはC/D境界の移動に伴って移動している. 時間に伴う堆積相B/C境界の陸側への移動は海進を,堆積相C/D境界の海側への移動は海退を表す.6.5 ka以降(海退期)をみると,堆積速度が小さい堆積相C,堆積速度が大きい堆積相D,堆積速度が小さい堆積相Eの組み合わせが保たれたまま,時間とともに海側に移動する様子を読み取ることができる.また,堆積相C2分布域の堆積速度にはばらつきがみられる.速度が小さい領域に着目すると,7.8~7.3 kaの期間において全域で堆積速度が低下している.<br> 海進-海退と堆積心の移動<br> 高い分解能で復元された堆積速度の時空間分布にもとづき,堆積心が陸海境界近くに形成され海進-海退に伴って移動してきたことを実証的に示すことができた.特に海退期については堆積相と堆積速度の配置が保たれたまま海岸線の移動とともに堆積心が移動している.また,内湾域において7.8~7.3 kaの期間において堆積速度の低下がみられた.この時期は海進から海退に転じた時期(最大海氾濫面:MFS)と重なっている.発表では粒度の時空間分布と堆積体の発達プロセスについて議論する.<br> 引用文献:山口ほか(2003)第四紀研究,42,335-346,Masuda and Iwabuchi(2003)Marine Geology, 199, 7-12,大上ほか(投稿中)地学雑誌.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693399808
  • NII論文ID
    130007016294
  • DOI
    10.14866/ajg.2009s.0.112.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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