浅間山から東京首都圏への火山灰輸送に対する局地風循環の影響
書誌事項
- タイトル別名
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- Influence of local wind circulation on volcanic ash transport from Mount Asama to the Tokyo metropolitan area
説明
[はじめに]東京首都圏(以下「首都圏」と呼ぶ)の北西に位置する浅間山は、これまで何世紀にも渡って噴火を繰り返し、しばしば首都圏に降灰をもたらしてきた。一方、首都圏では、弱風晴天下の午後に、太平洋沿岸から侵入する海風と関東山地付近で発達する谷風が卓越し、それらが水平200kmに及ぶ首都圏スケールの局地風系および局地風循環を形成する(例えば、Kurita et al., 1990)。Seino et al.(2004)等の先行研究に見られるように、局地風は火山噴火に伴う放出物の挙動に対して影響を及ぼす。2004年9月16日に起きた浅間山の噴火は、首都圏の広範囲に降灰をもたらした。本研究では、この事例を対象にし、各種リモートセンシング観測データや数値モデルを用いて、浅間山から首都圏への火山灰輸送に対する局地風循環の影響を調べた。 [リモートセンシング観測データと数値シミュレーション]気象研究所(筑波)におけるエアロゾルライダーの観測データ、東京海洋大学(江東区)におけるシーロメーターの観測データ、地球観測衛星TerraとAquaのMODISによる観測データ、気象観測衛星GOES-9のVISとIRによる観測データ、気象庁のラジオゾンデとウインドプロファイラおよびアメダスの観測データ、以上を解析に使用した。数値モデルには、TERC-RAMS(筑波大学陸域環境研究センター改良型のRegional Atmospheric Modeling System)とラグランジュ粒子法およびランダムウォーク法を用いた移流拡散モデル(例えばTsunematsu et al., 2005)を使用した。TERC-RAMSによる数値計算では、3重のネストを施し、水平格子間隔は、最も外側の領域から順に15km、5km、1.5kmとした。鉛直層数を40、鉛直格子間隔を最下層で100mに設定した。NCEP-NCAR再解析データ(時間解像度:6時間、空間解像度:2.5°)を初期・境界値に使用した。移流拡散モデルによる数値計算では、粒子が水平方向に1.0km移流するごとに0.1kmの水平幅で拡散するものとした。また、TERC-RAMSの計算により出力された鉛直拡散係数を用いた。9月16日の噴火では、噴煙が浅間山の山頂から1.5kmの高度(海抜高度4km)近くまで達したことが気象庁の観測により確認されているため、数値計算では、火山灰と仮定した粒子を浅間山上空の海抜高度4kmから放出した。その初期時刻は、噴火活動が顕著になった16日6時(日本時間)とした。ここでは、暫定的に、1時間に1万個の割合で粒子を放出した。粒子の大きさは、重力落下を無視できる程度であると仮定した。 [結果と考察]高気圧に覆われた16日の首都圏は晴天に恵まれた。浅間山から放出された火山灰は、午前中は、総観場の北風によってほぼ真南へ流されていた。しかし午後になると、それは南東の方向へ輸送されるようになり、結果、首都圏の広範囲で降灰が観測された。前述のライダーにより、16日20時以降、海抜高度3.0-4.5kmに火山灰とみられる非球形粒子が観測された。また、前述のシーロメーターにより、海抜高度2.6-3.2kmの高度に火山灰と推定される粒子が観測された。緩やかな気圧傾度のもと、16日午後の首都圏では海風と谷風が卓越し、それらは15時までに結合して、浅間山の方向に向かって吹く首都圏スケールの局地風系(南東風)を形成した。TERC-RAMSによる気象場の再現実験結果では、その風系の補償反流(北西風)が海抜高度1.5kmよりも上空に形成された。補償反流は、総観場の北風により強化されたものとみられる。移流拡散モデルによる火山灰輸送の再現実験結果では、補償反流の形成に従って、それまでほぼ真南へ輸送されていた浅間山からの粒子が、南東方向へ輸送されるようになる様子が見られた。下に示した図は、浅間山上空から放出された粒子が、午後、補償反流の影響を受けて、首都圏へ輸送されたことを証明している。 [結論]本研究結果から、浅間山の噴火活動により放出される火山灰は、海風と谷風の発達に伴って形成される首都圏スケールの局地風循環の影響を受けて南東方向へ輸送されることがあるといえる。またそれは、首都圏における降灰の可能性を高めることにつながる。
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2009s (0), 122-122, 2009
公益社団法人 日本地理学会
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キーワード
詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205693400960
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- NII論文ID
- 130007016296
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可