ガンジス・ブラマプトラ川流域における気候変動の稲作への影響

DOI
  • 浅田 晴久
    東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻修士課程
  • 松本 淳
    東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻

書誌事項

タイトル別名
  • Impact of climate change on rice production in the Ganges-Brahmaputra basin

抄録

1.はじめに<BR> 南アジアの農業生産を規定する最大の気候パラメータとしては降雨があげられる。インドの穀物生産量はモンスーン降雨と正の相関があり、降水量から生産量を予測する回帰式も立てられてきた(Parthasarathy et al. 1988; Parthasarathy et al. 1992)。ただ、これまでの研究の多くは全インドの生産量とモンスーン降水量との関係について調べたものが多く、その関係が必ずしもスケールの小さい地域でも成り立つとは限らない。南アジアの中でも最も稲作がさかんな地域は、インド亜大陸の北東部、ガンジス川、ブラマプトラ川流域である。この地域を対象として、生産量と降雨との関係を調べた研究では、全インドの結果と同様に、両者の間には正の相関があるとされている(Tanaka 1976; Kumar 2004)。ただ、この地域は有数の洪水常習地域であり、降水量が多ければ生産量が増すという単純な関係で説明できるとは考えにくい。稲作を取り巻く水文環境として、降雨と洪水の2つの側面からアプローチする必要がある。<BR>2. 対象地域とデータ<BR>研究対象地域として、バングラデシュ、インド・アッサム州、西ベンガル州、ビハール州、ウッタルプラデシュ州を取り上げた。バングラデシュ政府およびインド政府が発行する、過去40年間分(1961-2000)の郡(district)単位のコメ生産量、作付面積のデータを使用した。また、降水量データとしては、Univ. of East AngliaのClimatic Research Unitにより作成された0.5gridの月降水量データを使用した。<BR>3.洪水、旱魃の影響度の評価<BR>稲作データは、社会的な長期変動成分を除去するために5年移動平均からの偏差の百分率で示される。また、降水量は40年間の値を基に正規化されている。降水量と作付面積または単収(t/ha)の関係を図1のようにdistrictごとにプロットし、二次曲線の回帰タイプで分類することで(a)旱魃被害、(b)洪水かつ旱魃被害、(c)洪水被害と分類し、前半・後半各20年間の変化を比較することで、時代および空間的変化を調べる。<BR>4.夏季モンスーンの稲作への影響<BR>雨季稲作の単収は、前半(1961-80)は広域的に洪水の被害を受けていたが、後半(1981-00)になるとバングラデシュやビハール州の一部を除いて、洪水の影響が少なくなっている(図2)。一方作付面積は前半は影響が小さかったが、後半はバングラデシュを中心に影響を受けている地域が増加している。旱魃被害に関しては、西部の降水量の少ない地域で影響を受けており、近年は被害が軽減されてきていることが分かった(図3)。以上の影響度の変化を、気候変動、社会要因の両方の側面から考察していく必要がある。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693468288
  • NII論文ID
    130007016405
  • DOI
    10.14866/ajg.2005f.0.114.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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