スコットランドにおける「持続的」森林経営

DOI

書誌事項

タイトル別名
  • "Sustainable" Forest Management in Scotland

抄録

1.はじめに<BR>  1990年代以降、世界各地で、「参加」や「共同」をキー概念とする資源管理(経営)の取り組みが試みられてきた。また、それらの前提として、「持続性」への模索があったことも周知に属する。<BR>  さて、はたして「持続性」とは目的なのであろうか、もしくは何らかの目標を達成するための方法なのであろうか。広く合理性に関わる議論から、地理学における地誌学の意義に至るまで、この点は、様々な場面でわれわれが直面する一群の問題と関係している。<BR>  以上を踏まえ、本報告では、スコットランドにおける森林経営の現状とその「持続性」に関わる議論を整理し、スコットランドでの現地調査で得た知見を検討してみたい。<BR><BR> 2.スコットランドにおける森林経営の現状<BR>  表1にあるとおり、連合王国の森林率は第二次世界大戦後一貫して増加してきた。特に、スコットランドでは、1970年代以降、針葉樹類の植林が進んだ。その背景には、森林委員会(Forestry Commission: FC)への林地の集中、私有地での植林などがあった。その結果として、「ドアマット」「ブランケット」と呼ばれる植林地が増えていった。<BR>  しかしながら、1980年代後半、スコットランドでは、折からの「権限移譲」に向けた動きや財政難への対応を背景として、森林政策の転換をはかった。森林助成計画(Woodland Grant Scheme)を発表し、植林の補助対象を従来の針葉樹から「在来種」へと変更した。その影響は顕著であり、植林面積は約2万haから漸減傾向にあるものの、広葉樹を種とする「在来種」の構成比は、1割弱(1988年)から7割強(2001年)へと大きく変化した。また、1990年代、国内外での情勢の変化もあり、コミュニティレベルでの森林経営の取り組みがなされるようになった。<BR><BR> 3.2つの森林トラスト<BR>  スコットランドでは、1990年のコミュニティケア改革の後、労働党綱領の改正(1995年)、ナショナル・コンパクト成立(1998年)と、ボランタリー組織支援の制度的枠組みが整備されていった。<BR>  ここで取り上げる、ラガンとアブリアチャンはいずれもスコットランド中部に位置する集落である。両者とも、住民の自発的な組織として始まった活動が、途中から森林経営に取り組むというかたちで展開していった。これらを活動の延長と捉えるか、政策への取り込みと捉えるか、住民自身の評価も様々である。<BR>  ただし、小規模私有地における広葉樹の植林に加えて、これら森林トラストの取り組みが国有林地内での広葉樹林面積の拡大につながるのか、さらにはコミュニティの存続にとって何らかの意義を有するのか、地域ガヴァナンスという観点からも十分な検討が必要であろう。スコットランドにおける森林トラストの取り組みは、まさに「持続性」森林経営の交点に位置している、と言えそうである。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693569408
  • NII論文ID
    130007016562
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.43.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

問題の指摘

ページトップへ