奥利根・奥只見の湿原における植生変化の比較検討

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タイトル別名
  • Comparison research on vegetation change of bog in Okutone and Okutadami.

抄録

はじめに<BR>  本州中部以北の山地の高標高域には、高層湿原や湿性草原と呼ばれるスゲ類などの低小な草本や雪田植物群落を含む芝生状の植生帯が広がっている。この植生は多雪山地 で特に多く見られ、その成立には積雪が大きく関っているとされている。近年、中部以北の山地では積雪量の減少が認められている(気象庁 2001など)。こういった積雪量の減少は湿性草原に変化を引き起こすと考えられる。しかし、積雪量の減少と植生の変化の関連性については明らかになっていない部分が多い。そこで、本研究では、日本でも最も雪が多いとされ、かつ、高層湿原が多数分布する奥利根・奥只見地域において、積雪量の変化によって影響を受けやすいと考えられる山稜に分布する湿原と、涵養源を持ち水分環境が安定していて積雪量の変動の影響を受けにくいと考えられる盆地にある湿原の比較を行って、積雪量の減少と植生の変化の関連性について検討した。<BR><BR> 対象地域と資料<BR>  比較対象としたのは、会津駒ヶ岳と平ヶ岳の山稜に広がる湿原と、尾瀬ヶ原湿原を対象とした。これらの湿原を年代を隔てて撮影された航空写真を比較して、湿原植生の時間的変化について検討を行った。航空写真はスキャナでデジタル化し、航空写真測量ソフトでオルソ化した。この際、現地調査もかねてGPS機器にて測量を行って位置情報を取得して、それを元に精密なオルソ化を行った。積雪量の記録は、東京電力による尾瀬沼のものと、気象庁による只見のものを用いた。<BR><BR> 方法<BR>  オルソ化された航空写真をGISソフトに取り込み、植生境界をプロットして湿原の面積を計算し、湿原面 積の経年変化を検討した。変化が見られた部分については、夏期に現地で植生調査を行い、冬期には積雪分布調査を行って、積雪が植生とどのように関係しているか検討を行った。<BR><BR> 結果と考察<BR>  会津駒ヶ岳、平ヶ岳、尾瀬ヶ原における湿原植物が占める面積の変化を表および図に示した。これより、会津駒ヶ岳、平ヶ岳は1963年から2000年の間に面積は70%程度に減少しており、一方の尾瀬ヶ原では95%程度と、ほとんど面積の減少はみられなかった。現地調査の結果、平ヶ岳ではチシマザサとハイマツが湿原へ周囲から侵入しており、会津駒ヶ岳では、チシマザサが周囲から侵入し、コバイケイソウが比較的大きい面積に渡り繁茂している部分が認められた。尾瀬ヶ原では、湿原の内部に流れている川の周辺林、すなわち拠水林周辺からチシマザサやヤマドリゼンマイなどが湿原へ広がっていた。これらの結果から、会津駒ヶ岳と平ヶ岳では、湿原全体もしくは周辺から湿原が乾燥化して植生に変化があることが考えられた。尾瀬ヶ原では特に乾燥化は認められず、拠水林周辺からの植生の変化はいわゆる湿性遷移の状態に当たると考えられた。この地域の積雪量は減少し続けている(安田・沖津 2006)事から、積雪量の減少によって低温、過湿な環境が損なわれて、泥炭の保水性が失われて植生が変化したと考えられた。<BR><BR> 引用文献<BR> 気象庁 2001.『20世紀の日本の気候』気象庁.<br> 安田正次・沖津進 2006.上越山地における積雪の長期変動.地理評79;503-515.<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693592064
  • NII論文ID
    130007016587
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.94.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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