農産物産地の機能拡大とウメ産地の新展開

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タイトル別名
  • Expansion of the function of agricultural area and new development of ume production area
  • New trends of food distributions and their social issues part 3
  • -食品流通の光と陰(3)-

抄録

1.はじめに<BR>  従来,農産物産地(以下,産地)は農産物の生産・出荷部門に産地機能を集中させてきた.しかし近年,農産物価格が低迷するなかで,新たな産地機能として加工・流通部門が注目されている.この動きは政策課題に浮上し,農商工連携,農業の6次産業化,食料産業クラスターなど関連する政策メニューが数多く提示されている.こうした産地の取り組みを持続的に発展させるためには,産地機能の拡大過程とそこでの課題を動態的に捉える必要があると考えられる.そこで本研究では,他の品目に先行して加工・流通部門の導入が図られてきたウメ産地をとりあげ,1980年代後半以降の産地の展開過程を明らかにすることを目的とする.<BR>  事例産地として,伝統・大規模産地から和歌山県みなべ・田辺地域,伝統・中規模産地から福井県若狭町,新興・小規模産地から佐賀県伊万里市をとりあげる.規模と歴史を異なる3産地をとりあげることで,加工・流通部門の導入過程とそこでの課題を比較する狙いがある.<BR><BR> 2.ウメの市場動向<BR>  わが国のウメ生産は,1980年代後半以降に大きく拡大した.その背景には梅干しの消費拡大があった.健康志向の高まりや調味梅干しの開発と普及,外食・中食市場の発展などにより梅干しの需要は大きく拡大した.しかし2000年代に入り,健康食品市場の成熟化や長引く景気低迷により青ウメ(生果)や梅干しの需要は低迷しはじめ,現在は慢性的な供給過剰に陥っている.本研究では,1980年代後半~1990年代を「需要拡大期」、2000年代を「供給過剰期」とよぶ.<BR><BR> 3.ウメ産地の展開過程<BR>  伝統・大規模産地である和歌山県みなべ・田辺地域には古くから梅干しの加工部門が立地し,全国の産地で生産されたウメがみなべ・田辺地域に流入し,そこで加工された梅干しが全国に流通するダイナミックなフードシステムが長年続いてきた.<BR>  一方,伝統・中規模産地である福井県若狭町では,長年青ウメ出荷特化産地を形成してきたが,卸売市場価格が低迷しはじめた需要拡大期後半に地元JAが加工事業を導入した.また,供給過剰期に移行した2000年代中頃には新興・小規模産地である佐賀県伊万里市でも地元JAが加工部門を導入した.しかし,供給過剰期において製品の販路確保は難しく,そこでは一次加工原料(白干し)をみなべ・田辺地域の加工業者に販売する仕組みができていた(則藤,2010).<BR>  このような支配-従属関係から脱するため,若狭町や伊万里市では農商工連携の取り組みが活性化している.若狭町では流通業者との連携により梅干しの流通範囲が県内全域に広がり,伊万里市では地元の菓子製造業者や飲料業者との連携で製品の多角化が進められている.また,若狭町では梅干しやウメ関連製品の新規参入業者が複数現れ,ウメ産業の集積の兆しがみられる.<BR>  一方,みなべ・田辺地域の加工業者では,供給過剰期に対応するために連携組織による梅干しの認証制度や梅酢を活用した畜産業や養殖業との異業種連携を開始した.また,梅干しの直販を行う農家が増加し,直売所を運営する農家グループが現れるなど農家サイドにも新たな動きがみられる.<BR><BR> 参考文献<BR> 則藤孝志 2010.ウメのフードシステムの空間構造分析.フードシステム研究 現在投稿中.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693620608
  • NII論文ID
    130007016633
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.75.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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