高齢生産者による柑橘栽培の衰退過程

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タイトル別名
  • Process of decline in citrus cultivation by the aged farmers
  • A Case Study of Touwa-machi, Yamaguchi Prefecture
  • 山口県東和町を事例として

抄録

I はじめに<br>わが国では1991年4月のオレンジ輸入自由化に向けて「かんきつ園地再編対策事業」が実施され、不適地の淘汰が図られた。また各産地では高糖系温州ミカンや中晩柑への品種・系統更新が進められた。しかし、柑橘類の価格は1990年代以降も低迷し、生産者の柑橘離れは加速した。とりわけ、高齢化が進む瀬戸内海島嶼部では栽培面積・生産量が急減し、市場出荷に必要な量を確保が困難になった産地も多い。<br>本研究では瀬戸内海島しょ部でもっとも高齢化が進んだ柑橘産地を事例とし、高齢生産者による柑橘栽培の衰退過程を考察した。また、高齢者が栽培を縮小または中止する契機となる要因についても検討した。<br>II 研究対象地域の概要<br>研究対象地域に選定した山口県大島郡東和町は2000年国勢調査での高齢化率が50.6%と全国の市町村でもっとも高く、柑橘生産者の平均年齢も70歳前後に達している。同町は西南日本では数少ない普通温州の銘柄産地で、1960-70年代には「マルトウ」ブランドの普通温州が京浜市場を中心に高値で取引されていた。また普通温州の価格暴落後は宮内イヨカンや青島温州への転換を進め、大都市市場主体の出荷体制を維持してきた。<br>III 研究方法<br> 報告者は1992年に15集落96戸が柑橘類を栽培したことのある園地について栽培品種の変化や更新年、位置等を記録した園地履歴データベースを作成した。その後も追跡調査を行い、高齢生産者の生存率が比較的高い4集落の31戸148園地(計2,287a)について履歴データを更新した。本研究では、この履歴データをもとに栽培品種の変化や品種・系統更新の実施時期、廃園の実施時期、廃園の空間的拡大パターンなどを検討し、それらと生産者の年齢、災害等の発生時期、高齢生産者の死別時期等との関係を考察した。<br>_IV_ 結果の概要<br>1)品種・系統更新の状況<br> 70歳前後までは品種・系統更新への意欲をもつ生産者が多かった。夫と死別し週末農民などもいない女性生産者が多い小泊集落では1995年以降品種・系統更新がほとんど行われなくなった。いっぽう、内入集落は高齢ながらも夫妻が健在の農家や、定年退職後のUターン者、週末農民が多いことから、1995年以降も他の集落に比べ品種・系統更新が多く行われてきた。<br>2)廃園の進行過程<br>廃園は1972年の価格暴落直後から拡大したが、当初は不適地淘汰が中心であった。しかし生産者の高齢化が進むにつれ柑橘栽培に適している山腹斜面でも廃園が急増した。1990年代後半以降は木を伐採しないまま耕作放棄したり、廃園地の除草を怠ったりする者も増え、「廃園から雑草が侵入し除草が追いつかない」、「周囲が廃園なので園内で倒れたら誰も気づかない」という理由で栽培をやめるケースも増えた。<br>3)栽培の縮小・中止に結びつく要因<br>高齢者が栽培を縮小または中止する契機になる要因としては、上述した夫との死別や園地周辺の廃園増加のほか、以下のような点があげられる。<br>・大規模災害…1991年の19号台風で柑橘が大量に枯死。これを契機に栽培を中止した農家も多かった。<br>・光センサー選果機導入による選果基準の厳格化…高齢者の多くは光センサーをクリアできる品質を維持するために必要な防除作業やマルチの敷設などが行えず、生食用として出荷できない果実が大量発生。果実から得られる収入が減少し、柑橘栽培への意欲が低下した。<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693772032
  • NII論文ID
    130007016678
  • DOI
    10.14866/ajg.2004f.0.120.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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