バングラデシュにおける稲の生産変動と洪水

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  • The rice production variations and floods in Bangladesh

抄録

1.はじめに<br> アジアの主要な稲の生産国はアジアモンスーン域に位置しており、その生産はモンスーンに伴う降雨による影響を強く受ける(吉野 1999)。しかし、インドにおける穀物生産量が夏のモンスーン降水量と高い正の相関関係があるのに対し(Parthasarathy 1992)、隣国バングラデシュでは、ガンジス川・ブラマプトラ川という大河川の河口部に位置し、洪水が頻発するという特異な水文・地形環境にあるため、稲の生産量には洪水の影響も大きい。特に近年は、大規模な洪水が多発しており、農業への影響が懸念されている。本研究では、バングラデシュにおける前世紀後半の稲の生産量の変動を作期別に詳しく解析し、特に大洪水が発生した年に注目して、バングラデシュの稲作生産の変容と洪水との関係を解明する。<br>2.バングラデシュの稲作体系<br> バングラデシュでは、モンスーンに伴う季節に対応して、Aus, Aman, Boroという3つの作期がある。Ausはプレモンスーン期(4-5月)に雨が降り始めるとともに作付けされ、モンスーン降雨と洪水がピークに達する前(7月)に収穫される。洪水が引き始めるのに合わせて、8月にはAmanが作付けされ、11月に収穫される。Boroは唯一、乾季(12月から4-5月まで)に栽培される品種で、その栽培には水の供給が不可欠で、一般に灌漑が必要である。<br>3.結果と考察<br> 図1に示すように、バングラデシュにおける稲の総生産量は、この50年間に3倍以上増加した。特にBoroの伸びが著しく、これが生産量全体の伸びの主要因となっている。大洪水が発生した年(1955, 1974, 1987, 1988, 1998)の被害面積は、時代とともに増加している一方、洪水年1年あたりの稲生産量のへ被害はむしろ小さくなってきている。これは洪水年には、Amanの生産量が減少するのに対して、その減少量以上に洪水後の乾季に作付されるBoroの生産量が増加するまめである。<br> 生産量の変動を、作付面積と単収とに分離して考察すると、作付面積の変動が、生産量変動の主要因であった。すなわち、洪水年には耕地が水没するためAmanの作付面積が減少し、Boroの作付面積が増加する。Boroの栽培には灌漑が必要だが、洪水年には灌漑面積以上に作付面積が拡大しており、洪水時の余剰な地表水の利用によりBoroの作付が促進された可能性を示唆している。<br> 単収に関しては、洪水年にはそれほどの変化は見られず、むしろ洪水後数年にわたり、単収の上昇が見られる。これは洪水によって土壌が更新されるとともに、大洪水を契機にして在来種(Local)から改良品種(HYV)へと作付体系の変化が加速するためである。<br>4.まとめと課題<br> 本研究では、バングラデシュの稲の生産変動と洪水との関係を、長期間にわたる統計資料によって解析した。バングラデシュの稲作は近年、洪水のリスクの少ない乾季作Boroへシフトしており、特に大洪水年を契機に大きな変化が生じた。今後は、河川上流にあたるインド領内との比較を進めていきたい。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693900800
  • NII論文ID
    130007016848
  • DOI
    10.14866/ajg.2004f.0.19.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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