町並み保全に伴う街路景観の変容と観光地化による商店街への影響

書誌事項

タイトル別名
  • A Study on the Transformation of the Landscape Involving Historical Townscape Conservation and the Influence to Shopping Streets as the Development Process of the Tourist Destination
  • Considering the Analysis of the Landscape Evaluation by Tourists, Managers and Residents
  • 観光客・経営者・居住者による街路景観評価の分析を考慮して

説明

1.研究の背景と目的 昭和50年の文化財保護法の改正に伴って伝統的建造物群保存地区制度が発足して以降、歴史的町並み保全を契機とした地域づくりは全国に広まった。それらの地域では、歴史的建造物の修理、調和した街路景観の整備など、多くの事業が実施されている。なかでも街路景観の整備は、地域の歴史や文化を顕在化させる最も有効的な手段として扱われている。しかし、具体的にどのような街路整備が人々に評価され、その後の地域づくりへ影響を与えるかについては、街路整備事業がいずれの都市でも実施段階であるため、未だ明確にされていない。 そこで本研究では、既に街路整備事業が実施された埼玉県川越市を事例に、町並み保全としての街路整備事業による街路景観の変容およびそれに伴い観光地化した商店街の実態について報告する。なお、街路景観の評価に関しては、観光客、経営者、居住者の3視点から行うものであり、研究対象地域は、一番街、大正浪漫夢通り、菓子屋横丁の3街路とする。<br>2.街路整備事業による街路景観の変化と観光客・経営者・居住者による街路景観評価 一番街は、蔵造り町屋や洋風近代建築などの歴史的建造物を多く残しており、川越の町並み保全の中心となってきた。そのため一番街においては、小江戸のコンセプトの基に、歴史的建造物の保全、舗装の整備、電柱の地中化、周辺建物の修景など多くの事業が実施されてきた。個人や企業で建物を修景する店舗も増え、その結果、一番街は日本瓦のスカイラインが美しい、統一性、連続性のある街路景観が形成され、観光客、経営者、居住者に高く評価されている。 一番街と同じような歴史的建造物を有する大正浪漫夢通りでは、一番街の後続的なまちづくりとしてアーケードの撤去、歴史的建造物の保全、舗装の整備、電柱の地中化などが実施されてきた。しかし、道路幅員が広く開放的な割にスカイラインに統一性がみられないことや、コンセプトが大正という掴みどころがないことなどから観光客の評価はあまり高くなかった。 菓子屋横丁には、蔵造りのようなシンボリックな建造物はないが、石畳舗装が実施されただけでも十分に雰囲気の感じられる通りになっている。原色の派手な建築物もあるが、道路幅員が狭いことと主な通行人である観光客の視線は店先の商品に注がれることが影響して、それほど大きな問題にはなっていない。<br>3.観光振興がもたらした商店街の変容 一番街は、従来、地元客を対象とした店舗で構成されていたが、近年、観光地化が進行するに従って、観光客を対象とした店舗が多数進出してきた。特に重要伝統的建造物群保存地区選定以降の変化は著しく、なかには地域に関係のない土産物店もあり、地元商店主たちの間では戸惑いの声も出始めている。顧客数および売上は、一部の観光客を対象とした店舗では「増えた」ものの、従来からあった地元客対象の店舗では「変わらない」という回答が多かった。大正浪漫夢通りでは、9割近くが地元客を対象とした店舗である(図)ことから、川越の観光客が増えても、顧客数、売上に変化はないという回答が多かった。一方、菓子屋横丁においては、店舗の100%が観光客を対象に菓子の製造・販売を行っている。そのため近年の観光客の増加は、そのままダイレクトに顧客数、売上の増加につながり、いずれも「増えた」との回答が多かった。<br>4.まとめ 川越は街路整備事業を実施したことによって、各通りで時代的コンセプトに合わせた統一性のある街路景観を形成してきた。観光振興をしたことにより、一番街や菓子屋横丁は、商店街の活性化に成功したと観光客・経営者・居住者全てに評価されている。しかし、一番街では観光客を対象とした店舗が急増し、従来の商店街としての性格が変化するという事態が生じている。大正浪漫夢通りは、観光客が集まらず観光地化しなかった結果、商店街への影響も見られず活性化しているとはいえない。すなわち、町並み保全に伴う観光振興は、街路景観の統一を促進し、商店街活性化にも貢献したが、商店街の性格を変える原因ともなり得ることが明らかになった。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693925376
  • NII論文ID
    130007016897
  • DOI
    10.14866/ajg.2004f.0.171.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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