赤石山脈間ノ岳周辺の粗粒岩屑層の14C年代測定

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  • A trial of <SUP>14</SUP>C dating for coarse debris deposits around Mt. Ainodake, southern Japanese Alps

抄録

はじめに<BR>  日本の高山帯においては、一般に細粒の堆積物に乏しく大掛かりなボーリングも困難なため、絶対年代試料をもとにその場の地形発達を論じた研究は少ない。本研究では、とくにそのような研究例が乏しい赤石山脈において、主に岩石氷河と線状凹地内の堆積物から14C年代測定試料の採取を試みた。岩石氷河末端から計6試料を採取したが、いずれも礫質~砂質土で肉眼の観察において有機質に富むと判断できる試料は得られなかった。一方、線状凹地とモレーンでは、礫層の掘削が困難であったため、計4試料の採取深度は50 cm未満とごく浅かった。そのような制約条件があるものの、加速器質量分析(AMS)によって興味深い14C年代が得られたのでここに報告する。<BR> <BR> 調査地・調査方法<BR>  調査地の赤石山脈間ノ岳(標高3189 m)には、最終氷期最寒冷期(LGM)にほぼ現在の形になったとされるカール群があり、森林限界(2650 m付近)より上方に露岩と粗粒岩屑が卓越する高山帯が広がる。このうち山頂西側の小ピークである三峰岳の北面および南面の岩塊地形(化石岩石氷河)と、山頂東面の細沢カールのモレーンおよび山頂南面のアレ沢崩壊地南側の線状凹地群を調査対象に選んだ。対象地点の岩屑は砂岩または頁岩からなる。<BR> 三峰岳北面の岩石氷河(三峰北RG)には、前縁斜面(2750 m)の一部が下流側からのガリー侵食を受けた結果、基盤岩を覆う厚さ約10 mの岩石氷河堆積物の露頭が存在する。その3ヵ所で基盤岩直上をスコップで掘り出し1試料ずつ採取した。三峰岳南面のカール底から流れ出した岩石氷河(三峰南RG)では、前縁斜面上の1ヵ所(2640 m)において、携帯型エンジンオーガーを用い、深さ115~125 cmより3試料を採取した。細沢カールのターミナルモレーン下流側急斜面上(2820 m)においては、検土杖により深さ40~50 cmから茶褐色のシルト質土壌を採取した。アレ沢崩壊地南側の標高2600 m付近の線状凹地においては、1ヵ所ではハンドオーガーで23 cmおよび30 cm深から、もう1ヵ所ではハンドオーガーで表層の礫層をこじ開けたのち検土杖で40 cm深からそれぞれ黄褐色のシルト質土壌を採取した。試料の前処理およびAMS測定は(株)パレオ・ラボに委託した。<BR> <BR> 岩石氷河の14C年代<BR>  三峰北RGでは試料を採取した点が岩石氷河底部を構成する巨礫層に直接覆われていることから、得られた年代は岩石氷河の前進に伴い埋没した土層のものと考えられる。また、試料採取地点は岩石氷河下端より20~30 m上流側に位置するが、岩石氷河流動時の前進速度を1 cm/aと小さく見積もっても,試料が埋没した時期は流動停止より3千年以上前には遡らないと予想される。実際に暦年に較正し誤差が1標準偏差内に収まる年代は、10618±43 cal. BP、11198±18 cal. BP、17929±99 cal. BPであった。2試料が晩氷期末の岩石氷河前進を示唆しており、それより古い年代値は他の2試料より下位の層準に起源があると解釈できる。<BR> 一方、三峰南RGでは、岩石氷河の流動停止に伴い安定化した前縁斜面に植生が侵入したことを示す年代が得られたと考えられる。その結果は、865±63 cal. BP、3246±75 cal. BP、10226±15 cal. BPとばらついた。しかし三峰南RGでも、最古の値から三峰北RGと同様に完新世初頭にはすでに岩石氷河が現在の規模まで発達していたことが示された。さらに深い位置がより古い年代を示す可能性は否定できないが、LGMにカールが氷河に覆われていたと仮定すると、岩石氷河の発達、すなわち解氷後に永久凍土(現存せず)が発達した時期が晩氷期に対応することはきわめて妥当である。値の若い2試料は、値の古い試料採取後にオーガー径(5 cm)より大きな礫を砕いたのちに125 cm深より採取したもので、礫を粉砕する過程で孔壁を乱してしまったことにより、地表面付近の若い試料が混合してしまった可能性が疑われる。<BR> <BR> 線状凹地・モレーンの14C年代<BR>  線状凹地の年代は浅い方から、416±80 cal. BP、519±8 cal. BP、2092±35 cal. BPであった。また、モレーンでは3246±75 cal. BPという結果が得られた。遅くとも線状凹地は2千年前、モレーンは3千年前には現在の位置に存在したことが明らかとなった。現地の状況より、線状凹地内の堆積物は試料採取位置より充分に厚いと予想されるので、線状凹地の形成期はさらに遡る可能性が高い。また、同様にモレーンの形成期が完新世である可能性は低いだろう。

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693937664
  • NII論文ID
    130007016922
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.237.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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