タイ北部の山村における牛飼養の現状とその継続性に関する予備的考察

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  • A preliminary analysis on cattle husbandry system and its continuity in the hillside village, northern Thailand

抄録

1 はじめに<BR>  近年、世界各地域における人間の活動を、時間的変化の中で分析しようとする環境史的な研究が試みられるようになってきている(池谷編, 2009)。例えば、山地農民の家畜飼養活動を対象とした環境史的研究を構想した場合には、その活動の継続過程の解明が課題となるだろう。そこで本報告では、山地農民の牛飼養の現状と継続過程について、タイ北部の事例を示し、その継続性について予備的な考察を行うことを目的とする。なお、本報告で提示する資料は、タイ北部ナーン県のモン族の山村での現地調査から収集した。現地調査は2005年から開始し、これまでにのべ15ヶ月間行っている。<BR> 2 調査地の概要<BR>  調査を行った山村はナーンの町から西へ約40km、標高は約700mに位置し、周辺は熱帯モンスーン林に囲まれている。調査村の人口は632人で80戸を示す(2005年)。村人の主な生業は農耕であり、自給用に陸稲を、換金用にトウモロコシを栽培している。村人はトウモロコシを近隣のナーンの町で販売することにより、1戸あたり年間平均4万バーツ(約12万円)を得ている(Nakai, 2009)。<BR> 3 結果<BR>  調査村における牛飼養の現状は次のとおり。牛を飼養すする世帯は、77世帯のうち15世帯で約20%を占めた(2006年9月)。15世帯の飼養する牛はのべ110頭で、1戸あたりでは7.3頭、最大で20頭を飼養していた。<BR>  次に、インテンシブな調査を行った12世帯から成る親族集団Lでは、3世帯(A、B、C世帯と呼び、BとCはAの息子世帯)が牛を飼養していた。2005年5月にはA世帯は7頭、B世帯は4頭、C世帯は3頭を所有し、このうちC世帯は2頭の管理をA世帯に委託していたので、牛の放牧はA世帯9頭、B世帯4頭、C世帯1頭という単位で行われた。以下では、とくにA世帯の牛飼養の継続過程について述べる。<BR>  A世帯は2005年に2頭を販売し、10月には主人が高齢のために放牧できなくなり、息子のD世帯に2頭を分与し放牧を委託した。2007年には、残りの3頭のうち2頭を販売し(D世帯も1頭販売)、10月にD世帯の主人は村長に就任すると、所有する1頭をその祝宴で屠殺した。そして2009年9月に、A世帯の残りの1頭の放牧は未婚の娘が行っている。牛はいずれも調査村に買い付けにきたタイ族の仲買人に販売され、残る1頭はA世帯の主人(2009年には84歳)の葬制で屠殺する予定であると述べられた。<BR> 4 考察<BR>  上記の親族集団Lの事例から、タイ北部のモン族の山村で行われる牛飼養は、換金、祝宴、葬制という経済・文化的目的に基づいて行われ、飼養者の年齢や他の生業活動という世帯に個別の要因により変化しながら、さらに集団内の世帯間関係により変化する短期の牛飼養活動を含んで継続しているという特性をもつ可能性が示唆された。<BR> 文献<BR> 池谷和信編2009.『地球環境史からの問い』岩波書店<BR> Nakai, S. 2009. Analysis of pig consumption by smallholders in a hillside swidden agriculture society of northern Thailand. Human Ecology 37(4):501-511.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205693990016
  • NII論文ID
    130007016999
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.184.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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