沖縄県における保育サービスの供給体制

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タイトル別名
  • Provision System of Childcare Services in Okinawa Prefecture
  • The case of Naha City
  • 那覇市の事例を中心にして

抄録

1.問題の所在<BR>  1990年代以降,出生率低下と女性就業者の増加にともなって,保育サービスを中心とした子育て支援の充実が喫緊の政策課題となっている.従前の地理学分野における保育サービス研究では,保育所待機児童率の高い大都市圏が主たる対象とされてきたが,大都市圏以外でも待機児童問題の深刻な地域がある.沖縄県は,大都市圏外において際立って高い待機児童率を示しており,認可外保育施設への依存率もきわめて高い.この背景には,出生率や共働き率の高さによる保育需要の多さに加えて,米国統治時代の特殊な幼児教育・保育政策がある.<BR>  こうした沖縄の保育サービスの特質を理解するには,公共サービスとしての地域的公正の観点からだけでは不十分で,ローカルな保育文化(Childcare cultures)(Holloway 1998)をふまえた多元的な供給体制に着目する必要がある.そこで本研究は,沖縄県における保育サービス供給体制の地域的特徴とその背景,ならびに現状と課題について,那覇市を事例として考察する. <br> <br> 2.沖縄県における保育サービス供給体制と「5歳児保育問題」<br>  沖縄県では,米国統治時代に幼稚園が小学校に併設され,義務教育として幼稚園に通うという政策がとられた.その一方で,児童福祉法の適用は沖縄県では日本本土よりも遅れ,財政的な困窮ともあいまって,保育所整備は十分になされなかった.日本に復帰した1972年には,幼稚園が県内167箇所で整備されたものの,(認可)保育所は77箇所にすぎなかった.こうした歴史的背景から,沖縄県では現在でも,5歳児になると保育所児童でも小学校入学前の1年間を幼稚園に通う慣習が残っており,2008年における幼稚園就園率は80.7%と全国一高い値を示している.しかし,幼稚園での保育は一般的に午前中のみであるため,共働き世帯やひとり親世帯の児童については,終業後に保育所や学童保育に通う「二重保育」が生じている場合も少なくない.<br> <br> 3.沖縄県内における保育サービス供給の地域差<br>  2005年の市町村別の待機児童率は,沖縄本島南部において高い.特に,那覇市(5.0%)や沖縄市(6.4%)の通勤圏にあたる浦添市(12.7%),豊見城市(10.1%),西原町(11.4%),うるま市(10.6%)等で高い傾向にある.5歳児保育の供給率は保育所全体の3割程度で,市部で高く郡部で低い傾向にあるものの,全保育所が5歳児保育を実施する石川市や宜野湾市に対し,那覇市では2割弱の実施率にとどまるなど自治体間格差が大きい(神里2006).<br> <br> 4.那覇市の保育サービス供給体制<br>  保育サービス供給体制は市町村によっても違いがみられるが,ここでは待機児童が県内で最も多い那覇市を事例としてとりあげる.前述のように,5歳児保育問題は,幼児教育を担う幼稚園の存在が大きな影響をもたらしている.市内にある43幼稚園のうち36園が市立で,いずれも市立小学校に併設され,小学校長が園長を兼務している.一部で4歳児から受け入れている施設もあるが,大半が5歳児からの1年保育となっている.終業後の保育を必要とする場合は,19園で預かり保育が実施されている他,学童保育の大部分でも幼稚園児を受け入れている.<br>  これに対して,認可保育所は市内に65施設あり,うち50施設が私立で,13ある市立保育所も民営化して6拠点に集約する予定である.特徴的なのは対象年齢で,約半数の34施設が4歳児までの入所しか認めておらず,これが5歳児の幼稚園利用率を高める背景となっている(図1).那覇市の認可保育所は203人(2009年4月)の待機児童数を抱えているが,多くは3歳以下の低年齢児で,それらを受け入れるのが認可外保育所である.市内には認可保育所を上回る95の認可外保育所が存在し,その8割以上が個人経営の小規模施設で,夜間保育など公的サービスでカバーされない保育需要を充足している.<br> <br> 文 献<br> 神里博武2006.『沖縄の保育問題』山川なざれ文庫.<br> Holloway, S.L. 1998. Geographies of justice: preschool-childcare provision and the conceptualization of social justice. Environment and Planning C 16:85-104.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694007296
  • NII論文ID
    130007017023
  • DOI
    10.14866/ajg.2010s.0.199.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
    • KAKEN
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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