ヒマラヤ前縁の活断層運動の地域的差異とその原因

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  • Regional difference of active faulting along the Himalayan front and its origin

抄録

1. はじめに インドプレートとユーラシアプレートとの正面衝突によって生じたヒマラヤは,東西にわたってほぼ同質な帯状の地質・地形構造を成していると考えられてきた.ヒマラヤ前縁帯では,第三系のモラッセからなる褶曲山地(シワリク丘陵)と,この南縁にヒマラヤ前縁帯スラスト(HFT),北縁に主境界スラスト(MBT)がヒマラヤ全域を通じて発達するとされる. しかし,ヒマラヤ前縁帯を詳細にみると,ネパール東部を境としてシワリク丘陵の発達程度には違いが認められる.すなわちネパール東部より西側では,シワリク丘陵や縦谷性盆地が明瞭に発達するのに対し,ネパール東部から東側では,シワリク丘陵は欠落するか,明瞭な丘陵を呈しないシワリク相当層が認められるのみである. この地形・地質構造の相違に対応して,活断層の発達様式も異なることが,演者らの調査研究によって明らかになりつつある.本発表では,地形・地質構造や断層発達の地域的差異が生じた原因を,ネパール東部を境にプレートの衝突様式が異なるためと考え,その根拠を提示したい. 2. ヒマラヤ前縁における活断層の発達様式 2-1 インド北東部・ブータン(ブラマプトラ川北縁) HFTに沿う活断層は,長さ約300kmにわたって地表に変形を与えており,北側隆起の低角な逆断層センスをもつ.MBTに沿う活断層も同様に北側隆起の低角な逆断層センスであり,HFTと近接してインブリケート構造をなす. 2-2 ネパール・インド北西部 HFTに沿う活断層は北側隆起の低角な逆断層センスを持ち,地表に変位が生じている地域とそうでない地域が交互に認められる.MBTに沿う活断層は,長さ約30_から_180kmの顕著な空白域を挟んで発達し,北落ち変位が卓越する高角の正断層的性格を有する.HFTとMBTはシワリク丘陵を介して10_から_60km程度離れている. 2-3 ヒマラヤ-ベンガル断層(HBF) ネパール東部のティマイ川周辺では,右横ずれ断層のHBFがMBTから派生して南東走向に長さ100km以上延びる.トレンチ掘削調査では,過去2000年で2回活動が確認され,比較的活動度が高い活断層といえる.HBFを境として,その東西で地形・地質構造が異なっている. 3.ヒマラヤ前縁の断層構造の差異の原因 3-1 ヒマラヤ-ベンガル断層の性格 HBFの走向延長上にはシロン台地の西縁が位置する.シロン台地南縁にはダウキ断層(DF)と呼ばれる北傾斜の逆断層が発達しており(Chen and Molnar, 1977),シロン台地はDFによって傾動隆起したとされる.現在までの衛星写真判読ではHBFがDFの西縁に連続することは明らかではないが,ブラマプトラ川の激しい侵食・堆積作用によってHBFの断層地形が消滅・埋没したとみなすと,HBFはシロン台地西縁に連続し,MBTとDFをつなぐトランスフォーム断層とみなせる. 3-2 堆積盆の層厚の地域的差異 ヒマラヤの前弧堆積盆であるガンジス平原下堆積層の層厚をみると,ブラマプトラ川流域では,ヒマラヤ前縁帯から20km南で基盤岩が地表に露出し,堆積層は基盤岩を極めて薄く被覆するのみである(Metiveier et al., 1999).一方,ネパール東部から西側では堆積層が層厚1,000_から_8,000mと極めて厚く堆積する.このような堆積盆の層厚の違いの境は,おおよそHBFの断層トレースと一致する. 3-3 ヒマラヤ前縁の断層構造の差異の原因 ブラマプトラ川流域はHFTの下盤側にあたるにもかかわらず,前弧盆の堆積層が薄いことは,この地域がDFの上盤側にあたるためと考えられる.つまり,MBTとHFTが近接してインブリケート構造をなすのは下盤側に堆積層が欠けているため.前弧盆側へ断層面が移動できず,同じ範囲で地殻の歪みを解放し続けているとみられる. 逆に,ネパールやインド北西部では,前弧盆の堆積層が厚いために,堆積層の層理面に沿って断層面が前進するピギーバック型の断層構造が発達し,シワリク丘陵と縦谷性盆地が形成されたと考えられる. 3-4 断層の活動時期 シロン台地頂部には河成の中部中新統が堆積しているので(Gupta, 1977),DFは10Ma頃から活動を開始したとされ(Rao and Kumar, 1997),MBTの活動時期と符合する.おそらく,HBFもその頃から活動を開始したと考えられ,長期にわたるプレート衝突の違いが,ヒマラヤ前縁の地形・地質構造や断層発達に地域的な差異をもたらしたと考えられる.

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  • CRID
    1390001205694162688
  • NII論文ID
    130007017187
  • DOI
    10.14866/ajg.2004f.0.64.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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