地形学研究における地形発達シミュレーションの意義

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  • Significance of landform development simulation in landform studies

抄録

日本における第二次大戦後の地形研究を、その研究課題(対象)から概観すると、1)現在の地形は(地質学的時間の中で)どのように形成されてきたか、2)現在の地形は(観察・観測できる時間の中で)どのように形成されつつあるか、3)地形の成因・特性は他の事象(土壌・植生・土地利用・災害・環境など)とどのように関係しているか(応用的)、という3つに大きく分類できる。 貝塚(1998、発達史地形学、東大出版会)の用語法に従って、1)を発達史地形学、2)をプロセス地形学と呼ぶことにする。発達史地形学は、主として更新世以降に形成された丘陵・台地・低地など堆積物を持つ地形を研究対象としてきた。第二次大戦後、地質学の層位学・編年学の原理が地形学に取り入れられたことによって発展した分野である。特に火山噴出物を年代指標として用いることで進歩を遂げた。これらの地形および地形を作る地層は、その形成時代に対応した気候変化、海面変化、地殻運動、火山活動などを記録しているので、「地形発達史」の研究は、単に地形の編年的研究にとどまらず、気候変化、海面変化、地殻変動、火山活動などを地史的に復元する研究へと進展した。  いっぽう、プロセス地形学は、個々の地形形成作用ないし地形形成過程(プロセス)の原理・原則の解明に重点をおき、地形を変化させる諸作用(風化、斜面重力、風、川・海の水の運動など)を対象として、それら作用に関連する事項の測定によって地形現象を捉えようとする分野である。発達史地形学が歴史科学的側面を持っているのに対して、プロセス地形学は、機器による測定、測定値に基づく定量的推論など、他の「現在」科学(特に土木学、砂防学、河川・海岸工学など)と共通する手法を用いているため、これらの分野と親和性があり、地形学の成果をそれらの分野に提供することができた。  しかしながら、この2つの地形学の流れは現在まで50年近い年月の経過があったにもかかわらず、合流することはなかった。(以後の引用は前出貝塚による、原文ののまま)「地形形成作用の研究は発達史研究にとって必要であり、発達史研究は作用研究の成果を包含することにより、より総合的・歴史的なものとなる。逆に、その性格から作用研究(営力論)は発達史研究を包含することはできない。」 この貝塚の言説には重要な指摘がある。すなわち現在(の作用)を調べても過去(の歴史)はわからない、しかし過去を知るためには現在を知る必要がある、ということである。それでは、発達史研究はなぜ作用研究の成果を包含することができなかったのか、その理由は抽象化されたレベルでの地形発達モデル論が欠如していたからである。それは Davis・Penck の時代、すなわち近代地形学の揺籃期には存在していたものである。  発達史的地形観に依って、気候変化・海面変化・地殻運動・火山活動がなければ、地形変化はないかのような説明がなされることがある。いうまでもなくこれらは、地形とはほとんど無関係な原因による現象であるので、地形形成において(独立)外部条件と呼ぶことができる。外部条件は地形図に表現されるような地形の形成にかかわる時間(第四紀あるいは最後の氷期・間氷期サイクル程度)において大きく変化してきたことが知られている。しかしこれは外部条件についてのことであって、地形はどのように変化するかという課題は依然として、地形学の基本命題であることに変わりはない。  ここではプロセス地形学の最終目的であるべき、地形はどのように変化しているかを時間微分を含む基本方程式で表し、気候変化・海面変化・地殻運動・火山活動を外部条件の時間的変化として取り込み、発達史地形学のスキームの中でシミュレーションが行えることを示し、ひいては発達史地形学・プロセス地形学の位置づけが可能となることを主張する

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694177280
  • NII論文ID
    130007017214
  • DOI
    10.14866/ajg.2009s.0.92.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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