1990年以降のアメリカ地理学会(AAG)の成長からみたアメリカ人文地理学の近況
書誌事項
- タイトル別名
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- Understanding Contemporary American Human Geography: An Analysis of the Growth of the Association of American Geographers (AAG), 1990-2008.
説明
I. はじめに<br> 戦後日本の地理学がアメリカ合衆国の地理学界(以下「アメリカ地理学」と略)の影響を受けて発展してきたことは論をまたない。第二次大戦後のアメリカ地理学がどのように発展したかについては、キーパーソンの活躍と関連させて検討した杉浦(2001)や、地域研究の視点からアメリカ地理学の変遷と将来の可能性を論じた矢ヶ崎(2000)などがある。一方で、近年のアメリカ地理学について全国組織や地域支部の変化から分析したものは少ない。<br> 発表者は2001年から合衆国の大学院地理学科に6年半留学し、文献知識では得られなかったアメリカ地理学の諸相について学ぶ機会を得た。本報告ではこれまでの知見をふまえ、近年のアメリカ地理学で見られる変化について報告する。中でもアメリカ地理学でもっとも重要な組織であるアメリカ地理学会(AAG)の役割に着目し、近年のAAGの活動や問題点とそれに対応する動向について言及する。<br><br> II. AAGの全国組織と地域支部<br> 1904年に設立されたAAGは2004年に創立100周年を迎え、近年その規模は拡大傾向にある。AAGは現在2つの学術雑誌(Annals of the Association of American GeographersとProfessional Geographer)を年4回ずつ刊行しており、前者は英語圏地理学で最も評価の高い雑誌の一つである。また、全国規模のAAG年次大会(以下「AAG大会」と略)が毎年3月か4月に開催され、ここには毎年数千人の参加者が国内外から集まる。大会開催地は毎年全米各地の大都市で持ち回りとなっており、特別講演や委員会会合から一般発表やレセプションまで約5日間に渡る予定が組まれている。<br> また、全国組織であるAAGの下には現在9つの地域支部があり、毎年秋に各支部で各々の地域大会が行われている。地域大会の活況の度合いは地区によって差が大きい。活動が縮小傾向の地区が多い一方で、南東支部は支部大会を60年以上開催している歴史を持つ。後者においては、予算が少なく学部教育が中心である小規模大学の地理学教室の場合、AAG大会より支部大会を重視する傾向がある。<br><br> III. AAGの肥大化に対する批判と新たな動き<br> 急速なAAGの拡大には批判もあり、中でもAAG大会は肥大化に伴う弊害が指摘されている。大会は通常大都市中心部の大手ホテルで開催されるが、大会参加者の増加とともに口頭発表やパネルセッション数も増え、大会を通して研究発表が施設内に分散する部屋十数室で行われるようになった。そのため、現在の大会では次なる発表を聴講するためにセッションの途中で部屋を退出して別会場へ移動せざるを得ない状況が頻発することが問題視されている(Kurtz and de Leeuw 2008)。McCarthy (2008) はこの現状を鑑みて「もはやAAG大会は機能が収拾のつかない大会となっている」と断言し、出席者の過密なスケジュールを軽減するために、パネル討論・口頭発表・座長などに参加登録できる回数を一人当たり2セッションまで限定することを提案している。<br> 一方、AAG大会に対する不満や、隣接分野との交流の活発化などを背景に、AAGや地域支部とは異なる小規模な地理学研究集会の開催が増えている。この一例として、1994年にオハイオ州立大・シンシナティ大・ケンタッキー大の地理学者が集まって始め現在も続いている「批判地理学小集会」(The Mini-Conference on Critical Geography)が挙げられる(Dept. of Geography, Univ. of Kentucky 2007)。ここではAAG大会のような過密日程を避け、個々の発表に全員が参加し自由に議論することに重きをおいている。社会理論を援用した批判的人文地理学の研究が盛んになるにつれて、活発な議論や人的交流が期待できる同集会は地理学内外の大学院生や若手教官に注目されるようになり、次第に当該地域外からも参加者が集まるようになっている。<br><br> IV. おわりに<br> 学問の細分化と学際分野交流が進む昨今、AAG大会はアメリカ地理学の研究を先導する学術大会の限界を露呈しはじめている。一方、経済や学問のグローバル化が進む現在、会員数が増加してAAGが肥大化することは不可避な流れともいえる。このような文脈のもと、今後日本の地理学がどのようにアメリカ地理学と関わっていくか積極的に検討し、かつ交流していくことが求められる。<br><br>
収録刊行物
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- 日本地理学会発表要旨集
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日本地理学会発表要旨集 2009s (0), 91-91, 2009
公益社団法人 日本地理学会
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詳細情報 詳細情報について
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- CRID
- 1390001205694178048
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- NII論文ID
- 130007017216
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- 本文言語コード
- ja
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- データソース種別
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- JaLC
- CiNii Articles
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- 抄録ライセンスフラグ
- 使用不可