ジオパークと地域の自然再発見

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  • Rediscovery of the worth of the native nature through geopark activity.

抄録

ジオパーク活動は、貴重な地形・地質などの大地の遺産を保全するとともに、研究・教育・普及に活用し、さらにはジオツーリズムを通じて地域の持続可能な発展に寄与することを目的としている(渡辺、2008)。つまり保全と活用の両方を目的にしているのだが、どちらかというと後者の方に力点がある点が、保全を目的とする世界遺産と異なっている。<br> 2009年に世界ジオパークに申請した糸魚川など3地域には、世界ジオパークネットワークから審査員が2人(地質学者と地理学者)やってきて審査に当たったが、私たちの予想に反して、審査の重点は自然の価値にではなく、それを活用するための運営組織や設備(博物館や解説板など)の充実度、専門の科学者の有無、ジオツアーの実績の有無などにあった。こうしてみると、世界ジオパークは、類稀な自然や美しい景観があれば認められる世界自然遺産よりも、むしろ認定のハードルが高いといえよう。日本におけるジオパーク活動は現在、様々の問題に直面しているが、本稿ではそのいくつか取り上げて解決策を探ってみたい。<br><br> 1.地域の自然の再発見・再評価の必要性<br> 日本のジオパークの数は2010年7月現在で、世界ジオパークが3(同申請中が1)、日本ジオパークが11ほどになっており、申請は増加する傾向にある。日本列島にはジオパークにふさわしい自然が目白押しだが、問題は自然そのものの価値が十分認識されていないところにある。地質学のようにこのところ進歩の著しい分野の知識はまだ十分に共有されていないし、その半面、研究分野の細分化が進みすぎて、自然の要素間のつながりが把握できなくなるといった弊害も出てきている。細分化の本来の目的は総合にある。地理学者としては最新の研究を取り入れつつも、つながりを把握し、地域の自然の再発見・再評価を行うことが期待される。今回はいくつかの地域の事例を取り上げて紹介する。<br><br> 2.自然史教育の必要性<br> ジオツアーやジオエコツアーにおいては、その場の地形や地質の成因について、専門の科学者がかなり程度の高い説明をすることが多い。しかし日本人の多くはこれまで、美しい花や美しい風景を愛でるだけの、単純で知的活動を必要としない自然観察しか体験したことのないために、こうした解説に拒否反応をしめす可能性が高い。このような状況の下では、地形や地質の成因、地質・地形と植生分布の関わり、人間生活との関わり等について興味を持ってもらい、レベルの高い解説を理解してもらうのは容易なことではない。演者は、ジオパークの基本的な考え方が普及させるためには、まず国民の自然史に対する教育を充実させるしか手がないと考えている。ただ学校教育にそれを取り入れさせるのはすぐには困難なので、まずは社会人を対象としたジオツアーやジオエコツアーを行い、それによって自然史の興味をもってくれる人たちを増やすのが大事だと考えている。これについても各地での事例を紹介し、ジオパーク活動や地理学、地質学の振興についても合わせて議論したい。

収録刊行物

詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694211456
  • NII論文ID
    130007017277
  • DOI
    10.14866/ajg.2010f.0.130.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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