湧水湿地の特色とその保全活動

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タイトル別名
  • Characteristics of spring-fed wetland in Japan and its conservation activities
  • A case in Aichi Prefecture
  • 愛知県を例に

抄録

1.湧水湿地の分布・特色および重要性<br> 湧水湿地とは,湧水が地表を湿潤化することで形成された鉱質土壌をもつ湿地である.湧水湿地が着目される最大の理由は,貧栄養で湿潤な環境のため成立する湿地内の特殊な植生である.湧水湿地ではヌマガヤ・ホシクサ属・ミカヅキグサ属などを主な構成種とする草本群落が発達することが多く,これらは植物社会学の立場からホシクサ類-コイヌノハナヒゲ群団としてまとめられる.このほか,地形的環境によって湿地林が成立する場合もある.このような植生には,絶滅が危惧される希少種が多く含まれる.中でも,東海地方の湧水湿地には東海丘陵要素植物群と呼ばれる,シデコブシ・シラタマホシクサ・シロバナナガバノイシモチソウなどの地域固有または準固有の種がまとまって分布しており,とりわけ着目される.<br> <br> 2.湧水湿地が抱える問題<br> 湧水湿地の多くは開発圧の強い大都市近郊に存在する.このため高度成長期以来,住宅地や農地の造成のために多くの湧水湿地が破壊された.さらに,残された湿地でも多くで地下水減少が見られ,乾燥化とそれに伴う植生遷移が深刻なところが多い.なぜなら,湧水湿地にみられる固有・準固有種の多くは,遷移の初期段階に出現するため,遷移によって大型草本や木本種が進出すると駆逐されてしまうからである.湧水湿地に生息・生育する種は,一つの湿地が消滅するまでの間に,近隣に新しく生じた湿地に拡散することで命脈を保ってきたと考えられている.湧水湿地の密度が低下し,湿地の新生も望めない今日では,既存の湿地の植生遷移を遅らせる人為的な保全(維持管理)がどうしても必要である.<br> <br> 3.愛知県における湧水湿地の保全・活用の実態<br> 愛知県では,現在,多くの湧水湿地が何らかの形で整備・公開されるとともに,近隣住民による保全活動が実施されている.しかし,手探りのうちに行わ れている段階で,湧水湿地の利用・保全に関する適切かつ統一された手法は存在しない.まず,湿地の公開状況を見ると,一般公開日を除いて原則非公開としている湿地と,常時一般向けに開放している湿地とがある.非公開の目的は,踏み荒らし・外来種の投げ込み・盗掘などの防止といった保全であるが,一般見学者の利便は損なわれる.公開あるいは非公開とする効果を実地に基づいて整理・検討することが必要であるが,これまでのところ,このような調査は行われていない. 続いて,保全活動を見ると,行政担当部局と近隣住民が協力して行っているところが多い.こうした保全活動は湧水湿地の生物相保全に一定の効果を上げており,また,近隣住民の生きがいや交流の場も生み出している.一方で,以下のような課題もある.まず,ほとんどの湿地で経験のみに頼った保全活動が行われているため,検証とフィードバックが必ずしも十分ではない.また,湿地によって保全活動内容や担い手組織が異なるにもかかわらず,培われたノウハウや問題を共有・検討する場にも乏しい.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694212224
  • NII論文ID
    130007017279
  • DOI
    10.14866/ajg.2010f.0.131.0
  • 本文言語コード
    ja
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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