地方都市における大手電機メーカーの生産体制の変容と現状

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タイトル別名
  • Changes and present conditions of manufacturing system of the major manufacturer of electric machineries in a local city
  • The case of T company in Tottori City
  • 鳥取市のT社の事例

抄録

1.はじめに<br>1960年代以降、日本の電気機械工業は、安価で良質な若年労働力や主婦労働力を求めて東北、山陰、南九州といった地方に工場を分散させていった。しかし,近年ではより安価な労働力を求めて、中国を中心としたアジア諸国に生産拠点の主力を移すメーカーが増えてきている。電気機械工業は、その傾向がより顕著な業種であるといえよう。<br>そこで今回は、1960年代に鳥取市に進出した大手電機メーカーS社の子会社T社の事例を通して,近年の生産体制の変容とその現状について,部品の取引関係と雇用の両面から報告する。<br><br>2.アジアへの生産移管と分社化<br>T社は,1966年にS社の子会社として鳥取市に設立された。T社の従業員数は,その後3年間で約3,000人となり,雇用の面でも大きく地域振興に貢献した。しかし、T社の親会社であるS社は,家電業界の中でも早くから海外進出に熱心なメーカーであり、子会社であるT社も,1986年からの10年間に,フィリピンに2社,中国に3社の関連会社を設立した。アジアでの生産の割合は,近年急速に高まっている。<br>T社の親会社S社では,T社にはもともと4つの事業部あったが,2002年11月にそのうち2つの事業部がそれぞれH社,M社としてT社から独立した。T社でも,長らくいわゆる「白物家電」を生産してきたが,2003年現在,T社から独立したH社のS社ブランドの白物家電はすべて中国にある工場で生産されており,鳥取では一切生産していない。鳥取にあるH社では,商品設計などの研究開発と販売活動に特化しており,従業員はわずか100名であった。<br><br>3.M社の雇用状況と部品取引関係<br> T社からの分社化で独立したM社は,携帯電話やカーナビゲーションなどを生産している。2003年9月30日現在働く1,115名のうち正規従業員は651人であり,残りの464人は社外工であった。社外工の大半は,生産請負会社から送られる請負社員である。とくに、生産ラインで製造に携わる従業員の大半は請負社員であった。<br>M社でカーナビゲーションを生産する場合,約200社から部品を調達しているが、そのうち半数は中国やタイなどアジア諸国に立地する企業である。これらの企業からは主として電子部品を調達しているが,その中には,日本国内の大手メーカーがアジア諸国に設置した企業も多数含まれている。残りの半数を占める日本国内の企業には,電子部品のほか,プラスチック部品や歯車などの機械関連部品をつくる中小企業が含まれる。鳥取県内に立地する10社程度の中小企業は,プラスチック部品や機械関連部品,板金加工といった業種が主であり,電子部品関連の企業はない。<br><br>4.今後の課題<br>これほどまでにアジア諸国への生産移管が進み,部品調達までがアジア諸に大きく依存するような実態になれば,工業連関にも大きな変化が生じ,地域の関連産業にも重大な影響を与えているはずである。さらに,従業員構成における請負社員の増加は,地域の雇用状況にも大きな影響を与えていると思われる。今後は,地域での取引関係の変容と請負社員のより詳細な実態把握が必要となるであろう。<br>

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694234240
  • NII論文ID
    130007017324
  • DOI
    10.14866/ajg.2004s.0.129.0
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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