市民の立場で行う公共交通サービスの確保

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書誌事項

タイトル別名
  • Maintenance of Public Transport Service by Civic Viewpoints.
  • ―函館市・J-バス運行を事例に―
  • -A Case of J-Bus Management in Hakodate City.-

抄録

函館市陣川地区は,函館駅,五稜郭地区などを中心とする市街地北端の丘陵地に位置する市街化調整地域である.陣川地区のなかでも,陣川あさひ町会が組織される地域は,周囲を原野,山林などに囲まれた,とくに孤立した集落であるが,人口は約3,000人を擁する.この地域はバブル期,都市計画のいわゆる白地地域だった頃に開発が進んだが,その後,線引きの変更によって市街化調整区域になったため,周辺地域や近隣の市街地から孤立した集落となった.現在,当該地域では“既存宅地50戸連担”の枠組みによって,造成,建造が可能である.このため地域内には,行政施設や学校,病院,金融機関などは存在せず,商業施設として大手チェーン系のコンビニエンスストアが1店存在するのみである.このため,地域内で生活するうえで,運転免許および自家用車の保有は必須であり,また丘陵地に位置し,冬期間は積雪の影響により,自転車の利用には困難を伴う.一方で地域内の世代構成は,周辺地域に比べ大きな偏りがなく,若年層から高齢者まで,万遍なく分布する.この地域における既存の公共交通サービスは,函館バスによって運行される6‐2系統(函館バスセンター~函館駅前~五稜郭~上陣川)のみである.この路線は1996年,地域の強い要望によって開設された路線であるが,これ以前,公共交通は全く存在しなかった.市街地からこの地域に至る道路の整備が遅れており,バスが通行できる道路がなかったことも,路線開設に至らなかった背景にとしてあげられる.この路線は現在,通勤や高校生の通学を中心に利用されており,限られた便数ながらも,採算を確保できる水準が維持されている.路線バス開設と時期を同じくして,小中学生のためにスクールバスの運行も開始された.地域内に小中学校はなく,離れた市街地までの通学が必要であるが,距離上は行政のスクールバス運行基準に満たないため,当初は徒歩での通学を余儀なくされていた.しかし周囲を原野や山林で囲まれ,舗装はおろか,街頭も設置されていない箇所があり,安全上の懸念があったため,保護者による自家用車での送迎も日常的に行われていた.このなかで地域住民の発案,主導により,貸切バスを用いたスクールバスの運行が,1996年から行われてきた.一方で路線バスとスクールバスでは対応しきれない地域の需要が,少なからず生じてきた.函館市の市街地拡大や郊外化によって,いわゆる中心市街地は空洞化し,郊外に大型ショッピングセンターや病院が立地するようになった.路線バス(6-2系統)は,これらの地域を通らずに中心市街地や函館駅に向かう路線であり,日常生活のうえで十分とはいえない状態となった.地域住民の要望を受け,町会ではバス路線開設に向けたアンケート調査を実施し,これをもとに市長への陳情,町会および函館市,函館バスとの協議が進められ,2012年4月1日からJ-バスとして運行が開始された.当初は上陣川停留所を起点に,郊外の商業施設,病院などを廻り,上陣川に戻る循環ルートとした.車両は函館バスの一般路線バス車両1台を専用車として運用しているが,貸切バスとしての運行であり,車内での運賃収受は原則できない.このため事前に,利用券(歴月単位)か回数券(使用期限あり)を購入する必要がある.運行開始から,数か月単位で利用状況と路線・ダイヤを検討しており,2012年8月には循環ルートをやめ,大型商業施設に隣接する函館バス昭和営業所から,上陣川を往復するルートに改められた.利用の多くは,スクールバスからシフトさせた中学生であり,長期休暇中の利用の落ち込みが激しく,採算性の確保が課題となった.このため函館バス提供されたJ-バス専用車の広告枠を販売し,収入源とするほか,利用促進のための活動も活発化した.現在の運行体制は,これをもとにスクールバスを統合したかたちであり,スクールバスとして運行される一部の便のみに函館市から補助がされている. J-バスは町会が運営組織となり,行政,事業者との協働によって成り立っている.それぞれの組織が地域の公共交通サービスを確保するために“できること”からスタートしている.行政や事業者に頼り切らず,自主的に活動しようとする地域性もさることながら,三者が地域のために“何かする”という視点を強く持っており,かつ,担当者レベルでの意思疎通が極めて円滑であることも重要な要素といえるだろう.J-バスは2014年度,3年目の実証運行に入るため調整中である.

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詳細情報 詳細情報について

  • CRID
    1390001205694347648
  • NII論文ID
    130005473635
  • DOI
    10.14866/ajg.2014s.0_100101
  • データソース種別
    • JaLC
    • CiNii Articles
  • 抄録ライセンスフラグ
    使用不可

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